レイヤー:2 「夜」へ
オレンジのTシャツが扇風機の風でなびく。
「なんだい?
「いいですけど……この町には結構な回数来たことある気がしますけど、そんなこと聞いたこと無いですよ? あ、今日の鍋は何ですか?」
「夏野菜たっぷりの鶏の水炊き」
その後も効率よく作っていく
身内に祖母がいない
割烹着姿であちこち、移動してはトントンとリズム良い音が出ている。
「……はいお待ち。男なんだから、しっかり食べなさいよ」
「おかんか?! まぁ、ありがとうございます。でも、何故俺の家に?」
「そりゃ、心配だからに決まってるでしょ? 都会の人は料理をあんまりしなくても生活出来るって聞くし、この量の野菜をどう調理する気だったんだい? え?」
うぐ、と声が漏れる
しかし、背が低いちゃぶ台の上に置かれた鍋はなんとも美味しそうに見える。町の中でも特に有名になるほど料理が上手いとされる
料理している途中からいい匂いがしてたのもあり、
「流石だなー。それに量が多い」
「今日は1日走り回ったんだって? 体を休ませるにはまずは栄養から。はいどうぞ」
「あ、どうも……うげっ!」
具財を入れてくれたお皿を渡してくれたが、それは相手に食べる具財を任せることにイコールされる。
そのことに気付かず任せていた
「ふぅー、美味しかった。まさかあの苦野菜どもが、あそこまで美味しくなるとは……流石は主婦の方々だぜ」
「お粗末でした。さて、食べ終わったことだし、洗い物しますか」
「そんな、いいですよ。流石にそこまでは俺がしますよ。……ひょっとして、まだ子供だと思っています? ここに初めて来た時には既に二十歳超えてますが??」
そんなこと言っている間にも着々と進んでいく。
あ、と手を伸ばした時には入る余地のない状態になっていた。
(そう言えば、杉村もよく料理を作っては洗い物までしてたな……)
ただ無意識的に、何故か頭の中で重ねていた。
勿論、似ている要素なんてどこにも無い。性別も違うし、立ち姿も違う。
ただ洗い物をしていたという共通点なだけで重ねていた。
「ふぅん…………」
そこに何か驚きをすることも無く、
後ろを見ないように、これが意識的なのか無意識的なのか分からずに。
いや、分かろうとはしなかった。
さてと、とテレビの電源を付けた。
……しかし、田舎なんて場所に来るとみたい番組がやってないことなんてあったりする。
なんだか既に向こうで住んでたのが、こっちで再放送している感じだった。
「……この時間って、ゴールデンとかそこら辺だよな。何で再放送とかやってんだよ」
「そりゃここら辺だと当たり前のことなのよ。さ、寝る準備をするよ」
「え、もう?! いやまぁ確かに外は暗いですけど、まだ6時半ですよ!」
「早くても、夜は我々が寝る時間なのさ。ほら、御狐様が起きる前に寝なくちゃ。あ、布団は勝手に出しちゃうからね」
そうこう言っている間に今度は部屋の中に布団がひかれていく。
なんだか今日は亀山さんによく振り回されているような。しかし上手い反論が出来なさそうなので、
電気を消してもなお、2人でずっと話していたあの日。普通に楽しかったし、仕事に奴立つ話もしていた。
構図や書き方に関する本や、ゲームで使われているイラスト。他にも自分の作品を見合ったりしていた。
(……眠れない)
気が付いたら電機は消され、部屋に1人で布団の中に入っていた
眠れないな、窓を開けようと窓を開けようと布団から出る。
別に熱いからとかではなく、ただ気分的にという意味で。部屋の中は案外扇風機だけでも涼しかったりする。
外からは田舎らしく、蛙や虫の鳴き声がよく聞こえる。
「そういや、夜は御狐様の時間とか言ってたな。まさか、妖怪とかの類じゃないだろうな」
少し怖いが、所詮は田舎の言い伝え。カッパとかそこら辺と同じだろう。
ひと息つくと、窓をゆっくりと開ける。窓といっても、ドアみたいなものだ。
開けるとそこで外との壁が無くなる。虫が入って来そうだが、
その「なんとか」の部分が気になるが、きっと蚊取り線香とかそこら辺なのだろう。
「……そうだ、
ガサゴソガササッ
上から見たら靴が隠れる程成長している雑草達。
黒の短パンで来て大丈夫だったのだろうか、虫刺されが今更になって心配になる
田舎の夜はここまで景色が変わるのか。住んでいる東京の方でも「夜景」という言葉が出来ている程変わる物だ。
(とはいえ、ここまで変わるか? それこそ、何十年前にでも遡って……)
何かに気付いたのか、突然立ち止まる
ようやくここで気付いた。
「……ここは、どこだ?」
さっきまで無心に歩いてたからこそ、感じる恐怖は別格だった。
見えない何かに操られているような、ゾクリと見えない恐怖が背筋を震わせる。
どこから違った、どこから間違えた。一本道はどこだ。
足を止めて周りを見ても、そこは昼間に走り回った場所とは、世界そのものが違うように見えた。
まさかどこかで迷ったのだろうか。
まさか、どうやって? だってこの町はそこまで広く無いし、複雑な道がある訳じゃない。
特徴的で歩きにくい道なんてあるが、それが大量にある訳じゃ無い。
それに、ここは草原だ。
気が一つも生えていない、見晴らしのいい場所だ。
……なのに、なのに分からない!
「な、なんなんだ、これ……夢、じゃねぇよな?」
目を擦ったり、手の甲をつねったり、頬をひっぱったりした。
なのに、景色は全く変わらない。それどころか、何か1つの単語が引っかかるのに、何1つそれに関するものが思い出せそうに無い。
あと一歩なのに。
思い出そうとするが、逆に恐怖が増してきた。
……怖い。
そう呟きたくなるような状態。
歩かないと、どこか行けば誰かしらの家につくかもしれない。それが無理なら、知っている道が見つかるかもしれない。
幸いなことに、月明りである程度見えるぐらいの明るさがあった。
空を見てほっとしていると、違和感の招待が目に入った。
「月って、こんなに大きかったっけ?」
月が異常なまで大きい。普段だったら、見上げて少し探してあるというのに。今のサイズでは逆に綺麗な星々が隠れてしまうほど、とにかく大きかった。
昔、月を見て兎と答える人がいたらしい。それは地球から見た模様が、たまたま兎に見えただけによるもの。
「じゃあ、今は何だってんだ」
ひょっとしたら、小さい子が描く夜の景色に、紫だの黒があまり使われて無さそうな姿に、変わり果てていた。
「冗談じゃねぇっての……」
「そうかい? ここまで大きい月は見ないだろう? 幻想的な景色は、全ての生物を引き付ける。これは、歴史問わず変わらない法則なのさ」
後ろを振り向くと、チリンと鈴の音が来る。
小さな音を鳴らしていたのは、柔らかな毛並みをしたしっぽを動かす……何かだった。
「キツネ?」
「コンコン、でございますよ」
妖艶というより、可愛らしい数トーン高い声。
それは狐の耳が生えた……少女だった。
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