第30話 何に怒っているのか

 最近ダイヤに避けられている・・・。ハイドにも、流石に分かってきた。部屋に行ってもいなかったり、もう寝るからと追い返されたり。最初は本当に眠いからだと思ったが、連日ともなればいくらワイルドでおおらかで鈍感なハイドでも、気づく。

「俺、何かしたのかな?」

ハイドに心当たりはなかった。いつからダイヤの様子がおかしくなったのか、それを考えようと思っても分からない。考えていると頭がぐるぐるしてめまいがしてくる。

「ま、いっか。」

難しい言葉を知っているのに、考える事が苦手なハイド。残念である。

「ハイド、どうかした?」

夜、ダイヤに断られて自分の部屋に戻るハイドに、ばったりと出くわしたレインが声を掛けた。

「うん、ダイヤさんが・・・。」

何と言ったらいいのか分からず、答えに詰まったハイド。こりゃ何かあるな、と思ったレインが、お茶でも飲もうとハイドを誘った。

 もうロックも仕事を終えていて、カフェには誰もいなかった。レインがハーブティーを入れ、二人で向かい合って座った。

「ダイヤと上手く行ってないの?」

レインはそう言ってから、お茶を一口飲んだ。

「うん、まあ。」

ハイドはまだお茶に手を付けない。

「話してごらんよ。」

レインが言うと、

「最近、ダイヤさんに避けられてる気がするんだ。今日も昨日も、部屋に行くともう寝るからって追い返されるし。」

ハイドがうつむき加減で話す。

「ふーん。それは、多分避けられてるね。」

レインが言う。

「やっぱり?俺、何か悪い事したかな。」

ハイドが言うと、

「心当たりはないわけ?」

レインが言う。

「ない。」

ハイドはそう言うと、カップをいきなり持ってハーブティーをあおった。

「んぐっ、あっちー!」

当然、そうなる。

「あーあー、何やってるんだよ。あははは。氷持って来てやろうか?」

レインは急いで立って、冷凍庫から角氷をいくつかグラスに入れて持って来た。

「レインさん、ありがと。あひあひ。」

途中で氷を口に入れて、何か言ったハイドに、レインは派手に笑った。

 と、当然そこへあの人が現れる。レインの部屋に行ったら留守だったし、どこからかレインの笑い声が聞こえて来たものだから。

「レイン、さん?」

だが、ハイドと一緒にいる所を目撃してしまったロック。二人ともパジャマだ。

「あ、ロッキー。お茶飲む?」

レインがロックの姿を見つけて声を掛けた。

「いえ、いいです。それより、用が済んだら僕の部屋に来てください。」

ロックは努めて冷静にそう言った。

「うん、分かった。」

レインはそう答えた。


 「まあ、ともかくさ。ちゃんと話してみた方がいいと思うよ。何か悩んでいるのか、怒っているのか。」

ハイドの口の中がやっと落ち着いたので、レインはそうアドバイスをした。

「え、怒ってる?」

だが、ハイドには全く自覚がない。

「多分、気づかないうちに何かしたんだよ。それで、ダイヤが怒ってるんだと思うよ。だから、ちゃんと聞いた方がいいよ。」

レインの言う事は最もである。

「うん。」

腑に落ちないハイドだが、一応頷いた。


 待ってましたとばかりに、部屋に入ってきたレインをむんずと掴み、自分のベッドに放り投げるように寝かせ、破くかと思う勢いで自分の服を脱ぎ、覆い被さってきたロック。

(あ、来た来た。今日はあの日だね?)

レインは喜んだ。ロックは今夜もレインを激しく求める。

「ああ!ちょっと、痛いってば。あ、ああ!」

痛いと言えば必ず止めてくれるロックが、今夜は止めない。ちょっとびっくりしたレイン。だが、やっぱり激しく求められるのは胸がドキドキして、荒ぶってしまう。

「ああ!いい!ロッキー!」

それで、結局悦んでしまうのであった。だが、一つ引っかかる事がある。事が済んでから、レインは少し冷静になって考えた。

「ちょっと待てよ。ロッキーがこうなるのは、嫉妬した時なんじゃない?何?誰に嫉妬したの?」

レインがそう言うと、肩で息をしていたロックが、やっと落ち着いて、そして言った。

「レインさん、最近ハイドと仲良くし過ぎじゃないですか?」

「え?ハイド?何でだよ、たまたま会ったからお茶してただけじゃん。」

レインは驚いて言った。

「たまたま、ですか?」

ロックが疑いの目を向ける。

「いや、たまたま会ったら、元気がないから、話聞こうかなーと思ってさ。」

レインは少したじろいだが、別にやましい事は何もない。本当の事を言えばいいのだ。

「今だけじゃないです。二人でコソコソ楽しそうに話したり、花を受け取った時なんて、良い笑顔しちゃって。」

ロックはぶつくさ言いながら、レインの横に寝転がった。

「べつに、良い笑顔なんてしてないし・・・ん?花を受け取った時?」

レインは思い出した。ハイドから花を受け取った時、振り返ったらダイヤがいた事を。あの時のダイヤは、表情が良くなかった。そして、ハタと気づいた。ダイヤが怒っている原因は、恐らく自分だと。

「誤解なんだけどなぁ。」

流石に気が重くなって、レインは頭をがしがしとかいた。

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