第29話 オオカミみたいな顔をしたやつら
「お客さん、うちはそういう店じゃないんで。」
また、メタルが熱々のフライパンを持って客席に赴いて行った。
「うっ、分かった、悪かったよ。」
客の軍人が両手を万歳してそう言ったので、メタルは厨房に戻ってきた。
「全く、最近シルクは益々色気が出てきて、油断も隙もあったもんじゃない、って思ってるでしょ?」
と、同じ厨房にいるレインが言った。メタルはジロッとレインの方を見たが、何も言わなかった。
今日も自給自足カフェはそこそこ繁盛していた。特にランチ時には席が全て埋まる。ホールスタッフは大忙しだ。もちろん厨房の二人も忙しいのだが、既に作り置きしてある物もあるので、運ぶ方がてんてこ舞いに見える。
午後1時半を過ぎると、だいぶ落ち着いてくる。調理に至ってはだいぶ余裕が出る。レインは料理を注文する客が減るので、時にはコーヒーを飲んで休憩を取ることもある。
「あれ?」
カフェの窓を開けて、ハイドが中を覗いている。休憩をしていたレインがそれに気づいて、窓に近づいて行った。
「どうしたの?」
「レインさん、ダイヤさんは?」
「ああ、今買い物に行ってもらってるんだ。」
時には買い出しが必要になり、少し余裕のある時間帯にはホールスタッフの誰かが出かける事もある。
「そうなんだ。」
「残念だね。何か用だった?」
「これ、今採ってきたんだけど。」
ハイドは手に持っていた花束を窓の高さに掲げて見せた。
「わぉ、綺麗じゃん。」
レインが感嘆の声を漏らした。
「でしょ?」
そんな、ハイドとレインの「窓辺で笑い合う図」を見てしまったロック。
「はぅ!」
衝撃の余り、手にしていた桑を足の上に落して、
「イ、イッテ~!」
と、出来るだけ小さい声で言った。何となく、あの二人に振り返って欲しくなかったので。
一方、買い物から戻ってきたダイヤも、その二人を見てしまった。レインに花を渡すハイドを。その、ハイドの笑顔を。
「ハイド・・・」
本来なら、駆けていって自分が花を受け取れば良かった。なのに、それが出来なかった。ハイドは最近大人っぽくなった。以前、ハイドとレインは親子みたいに見えたのに、今は全然そんな事はなくて・・・。逞しいハイドと、美しいレインはお似合いに見えて。
花を受け取り、振り返ったレインは、
「ああ、ダイヤお帰り。なんだ、今帰ってくるんだったら僕が受け取る事なかったのに。」
レインはそう言って、花をダイヤに渡した。花を生けるのはダイヤの担当なので、ダイヤはちょっと作り笑いをして受け取った。綺麗な花も、今はダイヤの心を慰めてはくれない。
店を閉めて、みんなで夕食を囲んでいる時、ダイヤが言った。
「あのオオカミみたいな顔の人達、どうしてるかな。」
地下にいた獣人の事である。
「元気なんじゃない?」
ハイドが適当に言った。ダイヤは、適当にあしらわれた事に悲しくなった。
「あいつらは、元々地下に住んでいたのかな。」
シルクがそう言うと、
「火星に元々住んでいたのかもな。地球の文献には一切出て来ないが、地下までは調査していなかったのかもしれない。」
と、ロックが言った。
「なんで地下に住んでるんだろう。」
ダイヤが言うと、
「かつて、太陽からの距離が地球より遠かった火星は、生物が生息するには気温が低かったんだ。地下の方が暖かかったから、地下で生物が繁栄していったとしてもおかしくはないな。」
と、これもロックが言った。
「ロッキーは小難しい事を色々知ってるよね。みんな知ってた?ロッキーって生物学界の第一人者なんだって。」
レインがそう言うと、
「えー!?」
一同、まずは叫んだのだった。
「でも、ラブフラワーは隕石由来なんだろ?あのオオカミ人間達もそっちから来たって事は考えられないのか?」
メタルが言った。
「植物の種ならともかく、飛来する隕石に動物が宿っていたと考えるのは、少し無理があるのではないでしょうか。」
ロックがそう言うと、
「隕石の衝突で全滅しちゃいそうだもんね。」
アイルがそう言った。
食事を終えたレインは、自分の食器を片付けに立った。そこへ、同様に食器を片付けに立ったハイドと出くわした。
「小難しい話になってくると、ついて行けないや。」
小声でレインが言うと、
「俺も、ちょっと頭が痛くなってきましたよ。」
と、ハイドもこっそり言って笑った。レインとハイドがコソコソと話し、クスクス笑っている・・・ダイヤはまた、それを見て心が沈んだ。
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