第28話 とりやめ

 ロックとレインは走って外へ出た。

「ロッキー、これ何とかして!」

レインは後ろ手に縛られたままだ。ロックはレインを縛り付けている縄をほどいた。そして、レインが乗ってきたバイクの元へ二人で走って行き、バイクにまたがった。レインはバイクを発車させ、ロックはレインにしがみついた。ブロロロロー。

 しばらく走って行ったが、追っ手は来ていないようだった。

「レインさん!ありがとうございます!助けに来てくれて!」

ロックが、大きい声でレインに言った。

「それにしても、こんな大きなバイク、どうしたんですか?」

更にそう言うと、

「借りた!」

と、前を向いたままレインが言った。借りたにしても、運転出来るという事は、以前は乗っていたという事。まだまだレインについて知らない事がたくさんあるな、とロックは思った。だが、それはお互い様だ。

 しばらく行くと、ムサシノ国の方からトラックが数台連なって走ってきた。そうだ、ムサシノ国はサルボボ国を攻め込むのだった。レインはバイクを止めた。

「ちょっと待ったー!」

ロックはバイクから飛び降り、トラックの前に立ちはだかった。トラックは止まり、中から軍人が数人降りてきた。

「お前、ロックだな。どうしたんだ?どこへ行っていた?」

例の兵団長が言った。

「戦争はやめです。サルボボ国は、今後こちらの小麦と、あちらのラブフラワーとの貿易をすると決めました。近々打診があるでしょうから、話し合ってからでも遅くはないのではないですか?」

ロックがそう言うのを、兵団長は目を見開いて聞いた。そして、腕組みをして少し考え込んだのち、

「貿易か。確かに、その方がよさそうだな。」

と呟いた。そして後ろを振り返り、手でバックバック、という仕草をしてからトラックに乗り込んだ。退去というサインだろう。

「ふう、良かった。」

ロックがほっと胸をなで下ろすと、

「良かったね。ロッキーが平和を守ってくれた。」

レインがバイクのハンドルに肘を突きながら、そう言ってニッコリ笑った。


 家に帰ってから、改めてレインはロックに詰め寄った。お前は何者なのか、と。

「ロッキーは学者なの?学界の第一人者なの?その若さで?」

「ちょっと、待ってください。僕は別に隠していた訳でも何でもないですよ。家で時々研究をして、論文を書いて発表しているだけです。それよりレインさんこそ、結婚していたとか、あんなバイクに乗れるとか、僕の知らない事ばっかりじゃないですか。」

逆に言われてしまい、レインは顎を引いた。そして、色々ごまかす為に、何も言わずにロックに口づけをした。いきなりで驚いたロックだが、結局そのまま事に及んだのである。

「ロッキーがさらわれたって聞いた時は、心臓が凍るかと思ったよ。」

一息ついて二人でベッドに横になった時、レインはそう言ってロックの胸に指で丸を何度も書いた。くすぐったくて、その指をぎゅっと握ったロックは、

「助けに来てくれて、ありがとうございます。バイクにまたがって現れたレインさん、格好良かったです。」

と言った。

「あんまり、役に立たなかったけどね。」

テヘヘっとレインが笑うと、

「そんな事はありません。足がなかったら帰れませんから。」

ロックがそう言った。

「ああ、そっか。じゃあ、僕役に立ったんだね。」

「はい。」

二人は顔を見合わせて笑った。

 そして、戦争が取りやめになったと聞いたアイルは、泣いて喜んだのであった。

「ロックさん、レインさん、ありがとう!」

二人に同時にハグしてそう言ったアイルに、ロックとレインはまた、顔を見合わせて笑ったのであった。

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