第22話 感謝状
数日後、獣人発見に対する感謝状を贈る、と市長からお達しが届いた。最初に発見したのはレインとシルクとダイヤだが、助けに行った4人も含め、自給自足カフェメンバー全員に贈られるという事になった。
一人の軍人がカフェにやってきて、今日の昼過ぎに市長が来る、と突然言ったものだから、レインは大慌てでロックを窓から呼んだ。
「ロッキー!大変だよ、今日来るって!」
「何をそんなに慌てているんですか?」
後ろからアイルが問うと、
「ラブフラワー、隠しとかなきゃ。」
と、レインが言う。
「隠す必要があるんですか?」
ダイヤがきょとんとして言うと、
「だって、本当は出荷するはずの物を3つくすねて来てくれたんでしょ?あの子達が。だとしたら、うちにあったらまずいんじゃない?」
レインが答える。すると窓の所まで来て顔を出していたロックが、
「それよりも、殖やす実験をしている事がバレるとまずいですね。成功してから国に協力するのはいいですが、実験の最中に監視されるのはごめんです。」
と言った。
「とはいえ、畑に埋めてありますから、今更動かせませんし・・・まあ、部屋の中からは見えませんから、大丈夫でしょう。」
ロックがそう言うと、
「窓から外を覗くと見えるな。」
メタルが窓辺まで来て、窓から顔を出してそう言った。
「部屋の中からは見えません。窓から顔を外に出さなければ見えませんから、大丈夫でしょう。感謝状をもらうだけですし。」
と、ロックが言った。
昼過ぎ、たくさんの軍人を従え、屯田兵の兵団長と市長がカフェにやってきた。
「失礼する。諸君、市長のお出ましだ。」
カフェに入ってくるなり、兵団長がそう言い、それから自分は横へずれた。そして、市長が現れた。
「ここが評判の自給自足カフェですか。」
市長は意外と若い、とカフェメンバーは思った。
「では市長、お願いします。」
カフェの壁際には軍人がずらりと並び、カフェの従業員達はこぢんまりとカウンターの前に並んだ。狭い店内に、俄にステージが作られたような雰囲気だ。
「えー、自給自足カフェの諸君、この度諸君が重要な発見をし、我が国の国益に貢献してくれた事に感謝をし、ここに感謝状を贈ります。」
市長はそう言うと、賞状をロックに渡した。
「君がロックだね?時々君の論文を読んでいるよ。」
市長はそう言って、ロックに握手を求めた。
「ありがとうございます。」
ロックは賞状を隣にいたレインに渡し、市長の握手に答えた。
「それにしても、ここは眺めが良いね。向こうは何もないからね。」
市長はそう言うと、窓の方を向いた。
「ああ、あれがその発見現場となった丘ですか?」
市長がそう言うと、兵団長も窓の外に興味を持ち、窓の方へ歩き出した。
「ま、まずい!」
声にならない声で、レインが言う。兵団長は窓に手を掛けた。
「ああ、そうです。あの丘ですよ。」
ロックは大股で窓の方へ歩いて行き、兵団長が窓を開ける前にそこへたどり着いた。そして、ロック自ら窓を開ける。
「ご覧になりますか、市長。」
窓は外開きである。ラブフラワーが植えてあるのは左の方だ。ロックは左手で窓の取手を押さえたまま、そこにとどまった。市長が窓辺へ近づいて来たので、兵団長は一歩退いた。
「やはり眺めがいい。おや、この畑で野菜を育てているんだね?」
市長が言う。
「はい。」
ロックは意外に強者(つわもの)である。表情一つ変えずに、むしろにこやかに市長と話している。
しかし、いつまでもごまかせるとは思えないレインは、意を決して市長に話しかけた。
「あの、市長!」
「ん?ああ、レイン・・・久しぶりだね。」
市長がそう言った。
「はい。」
「このカフェには評判の美人シェフがいると聞いていたが、君だったのか。」
市長はそう言うと、窓から離れてレインの方へ歩いてきた。ロックは窓を閉めた。兵団長ももはや窓の外に興味を示してはいなかった。
「市長は、お変わりありませんか?お子さんは出来ましたか?」
レインが言うと、
「ああ・・・うん。何とか一人、生まれたよ。」
市長は目を少し泳がせながら、そう言った。
「えっ・・・そう、ですか。おめでとうございます。」
レインは笑顔を作ってそう言った。
「市長、そろそろ。」
実は一緒にくっついて来ていた秘書がいて、こそこそっと市長にそう呟いた。
「うん。じゃあ、レイン。元気でな。」
市長はそう言うと、レインの頭をちょっと撫でた。
「!」
ロックはそれを見て目を見開いた。
「それじゃあ諸君、失礼するよ。」
市長はそう言って片手を上げ、カフェのメンバーに挨拶をし、軍人を従えて出て行った。
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