第9話 取りに行こう

 カフェが閉店になった後、レインは廊下をウロウロしていた。それをシルクが見かけて声を掛けた。

「レインさん、どうしたんですか?何か心配事でも?」

「ああ、シルクか。あの話、聞いたか?ラブフラワーの事。」

レインは立ち止まってそう言った。

「ああ、聞きましたよ。ラブフラワーって、高価なんでしょ?」

「そうだよ。欲しくたって僕たちには手に入らないよ、普通は。」

レインが言った。普通は、と少し語気を強めて言ったレインに、シルクはハッとした。

「レインさん、もしかして、手に入れたいの?」

そこへ、ダイヤがお風呂から出て歩いてきた。

「何の話ですか?」

頭をタオルで拭きながら、ダイヤが言う。

「ラブフラワーだよ。」

シルクが言った。

「えっ、レインさん、手に入れたいの?」

ダイヤが驚いてレインを見た。

「お前達、ちょっとこっちへおいで。」

レインは自分の部屋に二人を招き入れた。

「あのな、ラブフラワーは子供を作る道具だけど、それだけじゃないんだよ。」

レインが部屋に入るなり言った。

「どういう事?」

ダイヤが聞く。

「愛し合っている二人が育てると、実が成る。愛し合ってるかどうかが、あの花で分かるんだよ。」

レインが言った。

「レインさん、愛を確かめたいって事?」

シルクが言った。

「お前達は、確かめたくない?」

レインがいたずらっぽく笑って言った。

「た、確かめたい・・・かも。」

シルクが最後は弱々しく言った。シルクは不安なのである。あれから時々メタルは部屋に来てくれるのだが、メタル本人が言ったように、シルクが魅力的だから、ただ体を求められているだけなのかもしれない。最初はシルク自身がそれを望んだのに、いつしかメタルの本心が知りたくなっていた。愛があるのかどうか。

「僕は、分かってるし・・・。」

ダイヤも、最後は尻切れトンボだった。ハイドと自分は仲良しだ。大好き、と言えば僕も、と返してくれるハイド。だが、いかんせん年下だ。やっている事は子供同士の遊びばかり。ハイドの本当の心が分からないというのが正直な気持ちだった。ハイドは小さい頃に両親を亡くしている。仲良しの相手が欲しいだけで、恋愛ではないのではないか。その証拠に、恋人同士がするような事は、ほとんどしていない二人だった。ハイドが若いから、と思いつつ、自分からはなかなか積極的になれないダイヤ。実は欲求不満でもあったのだ。

「僕は、知りたいんだ。あいつ、全然手を出さないどころか、何も言ってくれないからさ。」

レインが言った。

「でも、今僕たちみんなに子供が出来たら大変じゃないですか?」

シルクが言った。

「そうですよ。僕らにはまだ早いって、レインさんいつも言ってるじゃん。」

ダイヤも言う。

「子供はまだ要らないよ。ラブフラワーは、愛し合う所を見せると実が成るんだけど、何度も見せないと子供にはならないんだ。一度だけ見せて、後は見せないようにすればいいんだよ。」

レインが言う。

「そうなんだ・・・。でも、見せないようにって、どうやって?」

シルクが言うと、

「簡単だよ。布をかぶせるとか、部屋の外に出しておくとかすればいいだろ?」

レインがしれっと言う。

「そういうもん?間違えて出来たりしない?」

ダイヤが言う。

「できちゃったら、みんなで育てりゃいいじゃん?」

レインがにこやかに言う。

「まあ、確かに・・・それで、どうするんですか?ラブフラワー、取りに行くんですか?」

シルクが言った。

「明日、トラックで運ばれちゃうんでしょ?」

ダイヤも言う。

「そう。だから、朝早くから取りに行こうかなーと思って。二人とも、一緒に行くか?」

レインがそう言うと、シルクとダイヤは力強く頷いた。

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