第10話 丘の向こうへ

 レイン、シルク、ダイヤの3人は、翌朝まだ暗い内に起き出して、家を出た。丘までは畑を突っ切って行けばすぐだ。とはいえ、歩いて行くと小一時間かかる。目立つし、音で家族を起こしてしまうので、トラクターに乗っていく訳にはいかず、3人は歩いて出かけた。

 空が明るくなって来た頃、ようやく丘の向こうへたどり着いた。

「あ!本当だ、ラブフラワーだ!」

「いっぱいあるねー!」

シルクとダイヤがはしゃいだ。

「やっぱ、若い子は快復が早いな。」

レインは丘を登った後でハアハア言っている。

「さあ、堀り起こそう。」

レインがやっと息を整えた。3人はシャベルを出してラブフラワーの根元を掘り始めた。そして、根っこに着いた土ごと紙袋へ入れ、紐でくくった。それをリュックの中に据える。

「これでよし、と。さあ、帰ろうか。」

「うん!」

「うん!」

と、言ったところで、急に足下が崩れ、3人はバランスを崩した。それと同時に、何かにはたかれ、土と一緒に落下した。


 群生したラブフラワーのせいで見えなかったが、地面に亀裂があったのだ。3人はその亀裂の中へ落とされたのだった。人の背丈より少し高いくらいの位置に今まで立っていた地面がある。

「いててて、腰打った~。」

「レインさん、大丈夫ですか?」

「ダイヤ、お前は大丈夫なのか?」

「はい。」

「シルクは?」

「え?おーい、シルクさーん!」

辺りを見渡すと、少し先にシルクが倒れていた。

「おい、シルク、大丈夫か?」

レインがシルクの体を揺すると、シルクは目を開けた。

「あれ?僕たちどうしたんですか?」

「どうやら落っこちたみたいだよ。」

レインが言って上を見上げた。

 3人は、何とか地上に上がろうとした。だが、もうちょっとのところで上がれなかった。

「僕たち非力だなー。ロックやハイドだったら、きっと壁でも蹴って上がって行っちゃうだろうに。」

レインがぼやいた。

「でもほら、もうすぐ軍人さん達がこの辺に来るはずじゃないですか。そうしたら、助けてもらえますよ。」

シルクが言った。

「ああ、そうだよ!」

「確かに!」

レインとダイヤもそれを聞いて喜んだ。

 と言う事で、しばらく待つ事にした。その場に座り込んで、並んで壁に寄りかかった。

「ねえ、レインさん。レインさんってラブフラワーに詳しいよね。実を成らせた事があるの?」

ダイヤが聞いた。

「あー、いや。実はさ、僕結婚してたんだ。」

レインが言うと、

「えー!」

シルクとダイヤが叫んだ。

「そうなんですか?でも、今は?」

シルクは、何から聞いたらいいのか良く分からなかったが、とにかく質問した。レインは苦笑いをしつつ、暇なので身の上話をする事にした。

「僕は大学を卒業したら、カフェを開きたかったんだ。でも、金がないしどうしようかなーと思っていたら、街で美人コンテストがあってさ、優勝すると賞金がもらえるって言うんで、応募したんだ。そうしたら、まんまと優勝したんだけど、優勝すると主催者のお偉いさんの嫁にならないとイケなかったんだ。」

「え、レインさん、それ知らずに応募したの?」

ダイヤが突っ込む。

「いや、だってさ、その事はすごく小さく書いてあったんだよ。」

レインが釈明する。

「それで、結婚したんですか?」

シルクが先を促した。

「そう。断る事も出来たんだけど、子供さえ作れば、僕にカフェを開かせてくれるって言うからさ、仕方なく結婚したんだ。だいぶ年上の人だった。ラブフラワーの木がたくさんあって、その前で・・・。」

レインは言葉を切った。シルクとダイヤは心配そうにレインを見つめた。レインがちょっと辛そうな顔をしたから。

「あー、でもさ、実が成らなかったんだ。子供が出来なかったんだよ。それで、離縁されたの。1年間損したなー。あははは。」

レインは空笑いをした。

「実が、成らなかったんですか。つまり、心は愛し合っていなかったって事?」

ダイヤが聞いた。

「みんな、知らないんだよ。愛し合う行為をすれば、子供が出来ると思ってる。でも、そうじゃなかった。僕たちは心から愛し合ってはいなかった。だから、ラブフラワーは実を付けなかった。あんなにたくさん置いてあったのに。」

レインがそう言った。

「だから、愛を確かめる道具でもあるって、分かったんだ?」

シルクが言った。

「そう。」

レインが言った。

「でも、片思いだったらどうなるんですか?片思いでも実を付けるとしたら、僕たちが手に入れても、相手の愛を確かめられませんよ?」

ダイヤがそう言った。

「あー、気づいちゃったか。それはね、実は僕、ちょっとの間だけその結婚相手に恋をしていたんだ。最初だけね。それでも、子供は出来なかったから。」

レインが言った。

「嫌いになっちゃったんですか?」

シルクが言うと、

「最初は優しかったんだよ。僕の顔を気に入ったみたいだしね。でも、結局子供が欲しいだけで、僕はそのための道具なんだって分かってきて、それからは苦痛でしかなかったわけ。」

レインがそう言うと、むしろシルクとダイヤの方が泣きそうな顔をした。

「おいおい、悲しいお話をしたわけじゃないんだけど。」

レインが笑って言うと、気を取り直してダイヤが、

「レインさん、元々カフェがやりたかったから、うちに来たんだ?」

と言った。

「そう。カフェを自分で開くのは難しいけど、みんなでやるなら出来そうだなと思ってさ。僕が賞金としてもらった金は、みんなの子供を育てる時に使おうよ。」

レインがそう言うと、

「お、太っ腹!間違えて出来ても大丈夫だね!」

とダイヤが言ったので、

「おいおい、いい加減な事はダメだぞ。ちゃんと、計画的に・・・。」

レインが言うので、

「昨日と言ってる事が違うよー、レインさん。」

と、シルクに言われてしまったのだった。

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