第7話 ロックとレイン

 レインが貼り紙を手に初めてやって来た時、ロックは息が止まるかと思った。レインが、あまりに美しかったから。

「君がロック?この貼り紙を見て来たんだけど。」

レインはそう言った。

「あ、はい、僕がロックです。あなたは?」

「僕はレイン。料理が得意だよ。」

そう言ってニッコリ笑ったレインに、即座に恋に堕ちたロックだった。

 レインは見た目の麗しさに似合わず、ずけずけと物を言うタイプだった。けれども、一番年上だからと言って、命令口調で物を言う事はなかった。特に、呼びかけ人のロックに対しては、リーダーだからと一目置いていた。

 ただ、他のみんながロックと呼ぶのに、レインだけはロッキーと呼んだ。ロックはいつになっても、ロッキーと呼ばれると照れ笑いをするのだった。

 ロックは毎日畑で仕事をした。雨の日は部屋で本を読んだり、異種配合の実験をしたりした。カフェが閉店した後には、毎日経理の仕事をした。帳簿を付けるのだ。そして、売り上げの動向を分析し、仕入れや作付けの計画を練った。

「ロッキー、毎日遅くまでお疲れ様。」

ロックが経理の仕事をしていると、店にレインが現れた。ロックはカフェ店内のテーブル席で帳簿を付けていたのだ。

「レインさん。」

ロックは顔を上げて微笑んだ。

「お茶でも入れるね。」

レインはそう言うと、カウンターの中に入った。ハーブティーの葉をポットに入れつつ、お湯を沸かす。そして、帳簿を付けているロックの方を、じっと見つめた。

 ロックはふと顔を上げた。レインがじっとこちらを見ていたので、また息が止まるかと思った。

「はっ、な、なんですか?どうしたんですか、そんな、僕の方なんか見て。」

ドギマギしてそんな事を口走る。

「ん?いや、頑張ってるなーと思って。それに、真剣な顔をしてるロッキーは男前だなーと。」

余裕の笑顔で言うレイン。ロックは余りの事に表情を無くした。ロックの顔は元々シンプルである。端正だとも言えるが、どちらかと言うと地味なのである。

「あの、男前って何ですか?」

ロックがそう言うと、

「ああ、言葉が古すぎるか!」

レインが手を叩いて笑う。そのうちお湯が沸いて、レインはお湯をポットに入れた。カップを二つ出し、丁寧にハーブティーを注ぐ。

「入ったよ~。はい、ここに置くね。」

テーブルに二つのカップを運んできたレインは、一つをロックの前よりも少し端っこの方へ置いた。いや、置きかけた。

「あ、ありがとうございます!」

思わず自分の手を出して引き取ろうとしたロック。レインの指に、ロックの指が触れた。

「あっ!す、すみません!」

ロックはすぐに手を引っ込めた。カップはまだ数ミリ浮いていたので、ガタンとカップが揺れて、お茶がバシャッとこぼれた。

「あーあー、何やってるんだよ。あははは。ロッキーはドジだなぁ。」

レインは笑いながら布巾を取りに行き、戻ってきてテーブルを拭いた。

「手は?大丈夫?」

レインは、ロックの指を掴んで引き寄せた。

「えっ、あ、あの、大丈夫です。」

ロックが慌てているのを分かっているのかいないのか、レインはロックの指を確認し、

「うん、火傷はしてないみたいだね。」

と言って放した。そして、ロックの向かい側の椅子に座り、自分のお茶をすすりながら、じっとロックの顔を見る。ロックはカーッと顔が熱くなった。

「ほら、続きやって。」

レインは帳簿を指さす。

「あ、はい。」

酷である。

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