第6話 メタルとシルク

 シルクは細腰である。体の動きはしなやかだ。目も細い。流し目が色っぽい。サラサラした前髪が揺れ、視線を流せば、それを見た者全てを虜にすると言っても過言ではない。

 シルクは接客担当である。カフェでは料理を客の前へ運ぶ。荒くれ軍人の手が、いたずらをする事もある。つまり、セクハラだ。

 ある時、シルクが重たいお盆を持って料理を運んでいると、客の軍人の手が伸びて、シルクのお尻を触った。それは我慢したのだが、テーブルへお皿を並べていると、またその手が伸びてきて、尻をなで回した。

「止めてください。」

小さい声でシルクが言った。けれども、軍人はシルクの顔を見てニヤニヤするばかり。手をどけないのだ。

 そこへ、メタルがやってきた。

「ちょっとお客さん、うちはそういう店じゃないんで。」

メタルが低くそう言ったので、シルクを触っていた軍人が

「あ?何だって?」

と、すごんでメタルの方を振り返った。しかし、メタルは湯気の出るほど熱々のミルクパンを持っていたので、軍人はさっと手を引っ込めたのだった。

 何度かそういう事があった。シルクがセクハラを受けると、コーヒー担当のメタルは何かしら熱々の武器を持ってやってきて、

「うちはそういう店じゃないんで。」

と言ってシルクを助けてやるのだった。

 ある夜、店の外でシルクがある軍人と抱き合ってキスをしていた。シルクがいないと思って探しに出たメタルが、店の外へ出てそれを見つけてしまった。

「なに・・・やってるんだ?」

驚愕したメタルがそう言うと、軍人はぴゅーっと逃げていってしまった。それを見送ったメタルは、

「あいつの事、好きなのか?」

と、シルクに聞いた。だが、シルクは首を横に振った。ここで逃げていくような相手は、どう見ても誠実じゃない。つまり、ちゃんとした恋人ではないのだ。

「ごめん、なさい。ちょっと・・・ああいう事に興味があって、それで、誘われたから・・・。」

シルクが声を絞り出す。恥ずかしくて顔から火が出そうだった。

「ちょっと来い。」

メタルはシルクの腕を掴んで、家の中に連れて行った。そして、シルクの部屋へと入っていった。シルクをベッドに座らせ、自分も隣に座る。

「お前はすごく魅力的だ。自分を安売りするな。勿体ない。」

メタルが言う。

「でも・・・。」

シルクが何か言いかけると、

「好きな人がいないなら、お前の事をちゃんと大事にしてくれる相手を探せ。」

と、メタルが言った。

「そんな人、いないよ。」

シルクが言うと、

「いるよ。俺、とか。」

と、メタルが言った。シルクは弾けるようにメタルの顔を見た。冷静な顔をしたメタル。冗談なのか本気なのか、判別出来ない。

「メタルさん?」

シルクは、メタルがいつも自分を守ってくれている事は、もちろんちゃんと分かっていた。けれども、それは仲間意識とか、家族愛とか、兄弟愛とか、そんな感じだと思っていた。それでも、いつもありがたいと思っていたし、助けてくれる度に、そんなメタルをカッコイイと思っていたシルクである。

 シルクがじっとメタルの顔を見つめていると、メタルがおもむろにシルクの肩に手を置いた。そして、口づけた。

 上唇、そして下唇を何度もハムハムされ、同時に背中をまさぐられる。そして、メタルの唇がシルクの首筋へと移動し、しっとりと口づけされる。首筋への口づけが繰り返されると、シルクの唇から吐息が漏れた。

「はぁ。あっ。」

ふっと後ろに倒れそうになるシルクを、ぐっと支えて引き寄せたメタルは、

「今日はここまで。」

と言った。

「え?ヤダ、もっと。」

シルクが甘えるように言うと、

「また、明日な。」

と、メタルが言った。それを聞いて、シルクの顔はパアっと華やいだ。

「うん。」

その笑顔を見たメタルは、珍しくふっと微笑んだ。そして、

「今日はもう寝なさい。」

と言って、トンとシルクの胸を押してベッドに倒し、シルクの体に掛け布団をかぶせた。

「お休み。」

メタルはシルクのおでこに口づけをし、立ち上がって部屋の出口へ向かった。扉を開け、振り返ると、シルクは既に小さな寝息を立てていた。それを見て、シルクはふっと笑って首を小さく横に振った。

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