2 組み込まれた歯車
1年前。僕はちょうど華の20歳だった。しかし、別にそこらへんで輝く陽キャみたいにお酒一気飲みしたり、夜遊びしたりはしなかった。…いや、厳密に言えば夜遊びしたいとかじったところで僕はあの人に「捕らえられた」のかもしれない。
12月のその日も、日が落ちてからはとても寒かった。曜日にして言えば金曜日。夜12時。…あの頃の僕は収入も、自家用車も、彼女もいた。そんな順風満帆な僕はこの駅に友人を送り、帰路に着いていた。駅ロータリーから愛車(トヨタのアルテッツァというセダンだ。)を発進させ、商店街を抜けかけた時だ。脇の路地裏に、もたれかかっている人影を見た気がした。慌ててハザードを焚いて、車を停めて見に行く。そこには…。
「だ、大丈夫ですか…?」
華奢で、黒髪ポニーテール(にしては腰くらいまで長さがあった)の女性が壁にもたれかかっていた。見た目からして20代後半から30なるかならないかくらい。意識が朦朧としているようで頭をフラフラと動かしている。そして何よりも驚いたのがこの寒いのに、上着であろうコートを地面に落としたまま、半そで、ミニスカで佇んでいたのだ。慌てて駆け寄るとアルコールの匂いが鼻を突く。
「貴方…どんだけ飲んだんですかっ⁈」
そう言いながら彼女に自分が来ていたダッフルコートを着せると、あったか~い、と呟いてうとうとし始めた。こんなところで寝られても警察や近隣住民が困る、と思った僕はあろうことか…。
「…変な不良やヤリ〇ンに目を付けられるよかましだと思うんで…。」
自分の車までどうにか歩かせ、乗せていってしまった。
彼女が目を覚ましたのは、僕が途中で寄ったコンビニの駐車場脇で缶コーヒーを飲んでいる時だった。頭を抱えながらゆっくりドアを開けて出てくる。
「目、覚めました?」
「うぅん…。」
まだ赤面気味な彼女に買っておいた天然水を渡すと、一気に半分くらい飲み干し、プハッと息を付いた。
「…君が、私を運んでくれたのかな?」
「気づけば知らない男性の車に乗っていたってのに案外驚かないんですね。」
すると彼女はそりゃあ、こんなことよく繰り返していたらね、まだ君はマシ、と呟いた。
「…とりあえず家までは送っていきますよ。」
「あ、それならまだ足りないし飲みなおしたいから、お酒買ってからで良いかな?」
「まあ、良いですけど。」
すると彼女はにっこり微笑み、店内へ行ってしまった。
「ふ~ん。20歳かぁ…。若いねえ。」
「あな…お姉さんはおいくつなんですか?」
彼女の家に向かう車の中。なぜか彼女は助手席に座り、僕と他愛もない雑談をしていた。
「女性に歳を聞くのは基本失礼なんだぞ~、お母さんに教わらなかったのかしら?」
「にやにやしながら言ってくるあたり楽しんでますよね。」
「まあ、私は優しいお姉さんだから教えてあげる。28歳のOLよ。…もうすぐアラサーってわけ。」
「の割には何というか…随分お若いんですね、見た目…。」
すると彼女は、フフッと笑ってお世辞が上手な20歳ね、と言った。
「あ、ここよ。この12階建てマンション。」
立派なマンションに住んでいるな…と眺める。
「すげえ…。」
「そこの駐車場、マンション管理だけど一晩なら車置いといて大丈夫だと思うからそこ停めちゃってね。」
「……え?」
_____この段階でキッチリわきまえをつけていたらまだ、取返しは付いたのだろうか_____。
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