乱愛

万事屋 霧崎静火

1 振り返り

 都会に限りなく近いくせにベッドタウンとの区分けが付かない中途半端な近郊都市。そんなところにある駅周りは、飲み屋やゲームセンター、パチスロが大量にあり、週末から週明けは時間を問わず人だらけでごった返している。そんな人々から光と温もりを奪うかのように、あっという間に日が落ち、気温が下がる冬の夜6時。僕、駒北湊(こまきた みなと)は、駅のロータリーに自分の運転するタクシーを停め、脇のガードポールに腰を掛ける。懐からセブンスターとライターを取り出し、火をつけた。タクシー待機場にはまだあと8台ほど先約のドライバーがいる。まだ僕の番は回ってこないだろう。そんなことを思い、深く煙を吸ってニコチンを体内にねじ込み、目を覚ます。始めたて、「あの人」にもらったセブンスターだ。前すぎて中の葉っぱはもう湿気てしまっている。でも大切に吸っている自分がいる。…いや、本心はこんな有害物質の塊、吸いたかない。でも、吸いきらなきゃけじめをつけられない事情がある。ぼやっとセブンスターの箱を眺めながら、僕は1年前の「あの人」との思い出を考えていた。

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