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ロゼッティがヨハイム家にやってきてから、一年後のこと。
盛大な結婚式が執り行われた。
ロゼッティは一度、ヨハイム家とつながりのあるヨーク伯爵家の養女となった。この案は、結婚についてとやかく言われる前に外堀を埋めてしまおうというファルヴァントの考えだ。誰もこの案に反対する者はいない。みんなロゼッティのことが大好きだったから。
「お美しくございます、ロゼお嬢様」
家を飛び出す後押しをしてくれた侍女長カルラが、いま目の前で、目尻に涙を浮かべている。
慕ってくれるカルラや他の侍女、料理長などの使用人たちは、ランドム子爵家を退職した後、すぐにロゼッティのもとを訪ねてくれた。給金はなくてもいいので、どうか仕えさせてください、と。
ファルヴァントは、結婚したら次期侯爵夫人だから問題ないと快く了承してくれた。
(本当に私、ファルヴァント様と結婚できるのね……)
ほうけた顔でファルヴァントの立ち姿を見つめる。
とっても美男子で、性格もよくて気遣いできて、なによりもまっすぐ愛してくれる。
ロゼッティが心から笑うことができたのは、彼のおかげだ。
(あら? いま見覚えのある人影を見た気がするけど……気のせいね)
人混みのなかで、こちらをじっと見つめる男を見た気がする。
見覚えはあった気がするけど、分からないなら関わりの深い人間ではないのだろうから。
「ロゼ」
「あ、ファルヴァント様……」
「行こう。今日は君が主役だ」
「はい」
そうしてロゼッティは、逞しいファルヴァントの腕にぴったり寄り添い、結婚式を進めた。
この日、最高に素敵な笑顔を見せる夫婦──もとい、後世にも語り継がれるようなバカップル夫婦が誕生したのであった。
◇
ぼろぼろのコートを纏ったノジャは、結婚式会場に姿を見せていた。
何もかもうまくいかない。
あの日、アレクサンドル夫人に啖呵を切ってノエルとともに家を飛び出して、もう一年が経つ。湖畔に家を建ててノエルと幸せに暮らす、なんていうことは夢物語だった。
最初はノジャ個人が持っていたお金を切り崩し、小さな家を買った。しかしノエルは「こんな小さな家は嫌」「ドレスが欲しい」「宝石が足りないわ」とわがまま放題。
しかもお金を出すのはノジャなのだ。ノエルは家を出る際、ほとんど何も持ち出さなかった。これだけあれば生活できると思って。そんなことを言ってしまう彼女を、天然で可愛らしいと思ったのはほんとうに最初だけ。
ノジャはアレクサンドル夫人の、陰ながらの資金援助を期待していたが、いつまで待ってもそんな手紙はこなかった。本当に勘当されてしまった。こうなっては気合で暮らしていくしかない。でもお金の心配がある。日々なくなっていく貯金に顔を蒼くしたノジャは、ノエルに節約を勧めた。
「あなたもロゼッティみたいなこと言うのね!!」
ノエルがこんな癇癪持ちだったなんて、聞いていない。
これなら、地味だが気品があるロゼッティのほうが何百倍もマシだった。
(そうだ! あの豚令嬢ともう一度婚約してやろう! そうすれば母上も俺を家に戻してくれる。ノエルみたいな高慢女とはおさらばだ!)
しかし、誰もロゼッティがどこにいるのか知らない。
ロックスの数多くの不正でロックス自身が逮捕され、ランドム子爵家は没落してしまった。ノエルに聞いても、また癇癪を起される。
動けない状態がしばらく続いたあと、ロゼッティという令嬢が近々ヨハイム次期侯爵と結婚式をあげることを耳にした。
まさか、とは思った。
あの豚令嬢が次期侯爵と結婚するなんて。
(うそだろ…………)
そこにいたのは、確かにロゼッティだった。
あのときのような醜い豚ではない。
女性らしいふくよかさを残しつつも、細い所は細くてスタイル抜群。
なによりその美しい金髪が、ノジャの心をとらえて離さなかった。
(ロゼッティが…………こんなに美しかったなんて)
そのとき、会場の警備兵と目が合った。
会場に侵入するために、招待客の一人に成りすましているのだ。自分が本来の招待客ではないことは、警備兵ごときが分かるはずない。
しかし、警備兵はどんどん近づいてきて。
「おまえ、ノジャ・アレクサンドルだな」
「いや、違…………」
警備兵はノジャを捕まえ、会場から引きずり出した。
そのあと彼がどうなったのか、知る人はいなかった。
【短編】拝啓、婚約破棄して従妹と結婚をなされたかつての婚約者様へ、私が豚だったのはもう一年も前の事ですよ? 北城らんまる @Houzyo_Runmaru
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