暴れるパラレル
しばらく会話していたら雨が止んでいた。
時刻は8時30分
学校は休むことにした。
「いいの?学校休んで」
「一日くらい大丈夫だろ」
「親…とか」
僕には親がいない…
別に悲しいわけじゃない、ただ少しだけ羨ましいだけ。いなくても生きていけるし、立派になれる。
僕はそう思っている、だからこそ悲しくない。
「ご、ごめん。なんか触れないほうが良かったよね。」
そんなことを聞いて何をいってるんだと思った。そう思いながらも、頬に雫が流れていった。
「だ、大丈夫。大丈夫。雨が垂れただけだから。」
そう言って頬を擦った。自分に言い聞かせるように、自分は寂しくないんだと、一人でも大丈夫だと、思い込むように…
「ごめん」
頬に垂れる雫を拭っていると、小さな声でそう言われた。
「だから、大丈夫だっ…」
そう言いながら目を開けた瞬間、ふわっとした長い髪が視界をかすめていくように消えていく。髪が通り過ぎていった空間には少し甘い果実のような匂いがした。
「ちょっ」
「このまま少し…」
彼女もできたことない僕には、あまりにも刺激的すぎて、抵抗なんてできなかった。
彼女は僕の鎖骨に顔を埋め、小さく息をする。僕は何をすればいいか、なんて声をかけたらいいかわからなかった。
段々と彼女の体温を感じてきた。というかとても冷えていた。
雨の中びしょ濡れでこんなとこにいたらそりゃあ冷えるか。
僕の体は彼女を温めるように背中に手を回していた、自分でもなぜこんなことをしたのかわからない。多分そんな気分だったのだろう。
彼女を包み込んだとき、話したことも、あったこともないのに、何故か僕は彼女のことを覚えている感じがした。
互いの体温を共有し合うように抱きしめ合い、そう長くない時間が過ぎていった。
彼女は心が落ち着いたのか、ふと顔を上げ目を合わせる。彼女の目は少し赤みがかっていたが少し幸せそうな顔を向けていた。
「今更だけど、びっくりさせちゃったよね。ごめん…」
「う、うん。少しね」
そんな他愛もない話をしていると、雨が上がっていた。
「雨、上がったね。」
「とりあえず着替えに家戻ったら?」
「そうする」
そう言って、彼女は家に向かって歩き出す。僕も急いで後ろを追いかけた。
彼女は「なんでついてくるの?」と振り向かずに聞いてくるので、「別に行くとこないし」と答えると、それ以上聞いてくることはなかった。
10分ほど歩いていると、どこにでもあるような住宅街の中の少し洒落たアパートについた。
「私の家ここだから、送ってくれてありがと。」
とアパートの階段を上がろうとしている彼女を僕は呼び止めた。
「連絡先を…」
彼女は「わかった」といって持っていたカバンを漁っているが、
「あ、携帯、家の中だった。ちょっととてくる。」
「それなら着替えてからでいいよ。」
「ありがと」といって家に帰っていく彼女を見ながら、彼女が話した話を思い出していた。
彼女は僕と同姓同名で見た目も瓜二つ。そんな男と交際しており、今日の早朝に別れ、さまよっていたら雨が降り始め、近くの公園に逃げ込んだ。
その元カレとの別れ際の最後の言葉が、「お前にはもう飽きたんだよ。」だった。
そんなやつが僕とほぼ同じ人物なんて…
そんなことを思い、あったこともない人物に対してやるせない思いがこみ上げてきたその時
「ねぇ…」と今にも泣き出しそうな顔で俺の方を見てきた。
「ど、どうしたんだよ。ってか着替えないのか?」
「それが、違うの」
「違うって何が」
「名字が…」
そんなことってあるのか、
脳内の片隅で自分のファンシーな部分がなんとなく思っていたこと、現実味のかけらもないこと。でも、今この状況ならありえなくない。むしろこっちのほうが堅実的なのか?
「もしかして、本当に…」
「なに!なんか知ってるの!?」
「知ってるというか、なんというか…」
「いいから言って」
このことを言うのは少し気が引けた、自分でもこんなにも馬鹿げたことが現実に起こるわけ無いとわかっているから。でもこんな反応していたら元カレと勘違いされそうだし…
「笑わない?」
「話の内容によっては殴る」
妙に怖いことを言われたが仕方ないと割り切り話すことにした。
「君は何らかの影響で運悪くパラレルワールドに来てしまったんだ。」
「は?」
「確かにそんな反応をするのはわかるし、僕も信じられない。でも今の状況からしてありえなくないんだ」
そう言って彼女になぜこのような考えになったかを説明し始めた。
まず、この街に僕と同姓同名で顔も瓜二つ、歳も一緒ならあったことなくても話ぐらい聞いたことあるだろう。でもあったことも、話を聞いたこともない。
そして、彼女は同じ学校の制服を着ているが、同い年なのにも関わらず、名前も顔も見たことない。
最後に彼女の家には違う人の名前の表札がかかっている。
証拠不十分と言われればそれまでだが、納得するには十分だった。
「だとしたらこれからどうすればいいの?」
「今から帰り方を探す…」
「それで帰れなかったら?」
「と、とりあえず図書館とか、行ってみる?」
少し嫌な予感がしたので話題を切り替え、なにか手がかりがないか、図書館に行くことにした。
図書館と行っても田舎のじんまりとした図書館でパラレルワールドについての本があるわけもなく、それっぽい小説やラノベを読んでみたもののあまりいい手がかりはつかめなかった。
移動中や本を読んでいる間も、彼女の表情は不安そのもの。そりゃそうだ、俺だって彼女と同じ事になったら、それこそ不安で何もできない。でも彼女は、戻れると信じて頑張っているのか…
本当にそうか?彼女がもしあっちの世界に行ってしまったら、彼女は一人ぼっちになるし、ここにいたほうが彼女にとってもいいんじゃないかな?
でも…
「ねぇ」
そんな事考えていたら、彼女から呼びかけられた。
「今日あんた家いってもいい?」
「は…?」
僕の両親はもうこの世にはいない。つまり、今家に小夏を迎え入れると家に二人きりになってしまう。年頃の男女がひとつ屋根の下。しかも相手は僕に似た男性を好いているときた。何も起こらないわけないのだ。こちとら彼女いない歴イコール年齢の高校男児だぞ。これからどうなるんだよ…
「じゃあおけーってことね!」
「お、おう。」
だが、こんな年頃の女の子を野宿させるほど僕の心は腐っていなかった…
こうして、何故かわからないがパラレルワールドから来たと思われる少女「安達小夏」と同棲することになったのだ。
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