パラレルパラソル

日生 千裕

気分屋の非日常の始まり。

「ありがとう、今まで幸せだったよ。」そんなありきたりな別れの言葉。

普通ならショックで泣きたくなる言葉。

そんな言葉が今の僕には心地よくて、目の前にかかったような深く暗いモヤのようなものがすっと晴れていく感じだった。

そして僕はその言葉で決心した…


時は戻り半年前、僕、涼森すずもり虎太郎こたろうはある衝撃的な事件に出会ってしまった。


この日は、いつもより早く学校に向かっていた。

理由は特にない、ただ早く行きたくなっただけ。僕はとても気分屋なのだ。

でも僕は今、とてつもなく後悔をしている。

ザァーっという音とともに大粒の雨が降り出したのだ。

くっそ、天気予報は晴れだったじゃねーか!傘持ってねーぞ!と思いながら、とりあえず、雨が止むまで公園で休むことにし、近くの公園に小走りで向かう。

その公園はあまり広くなく住宅街の中にある小さな公園といった感じで、こんな朝には誰もいない…

はずなのに。

そこには、自分と同じ学校の制服を着た女の人がポッツンと座っていた、座っているところには屋根があり、濡れることはないが彼女はすでにずぶ濡れで、それでいて表情がとてつもなく暗い、まさに振られたあとの少女のように…

僕は話しかけた。

けして同情したわけじゃない、ただそんな気分だった。まさに自分の第六感が話しかけろと言っているかのように。

「あ、あのー大丈夫ですか?」

声をかけるまで僕のことを認識していなかったのか、彼女はとても驚いて、

そして固まった。

「おーい、生きてるかー」

はっと我に返ったと思うと、いきなりとんでもないことを言い出した。

「いきなりなんだよ!私のこと振っといて、雨の中に消えたら心配になって追いかけてきたっていうの!?」

「ちょ、なんのこと…」

「だいたいね、あんたは無責任なのよ。勝手に好きになっといて、私が思いに気づいたときにはもう…バカァ!」

「ちょっと冷静になれ!」

「私は冷静よ!」

何だこいつ何言ってるのかさっぱりわからん、俺に彼女?生涯彼女いねぇっつーのだとしたらこいつの妄想?ガチで何なんだこいつ

「お前が言ってることがさっぱりわからん。なんのことだ?」

「ここまでして次は記憶喪失!?信じられない!」

「話が噛み合わないから一回冷静になろ?な」

できるだけ優しく、ゆっくりと話した。興奮した酔っぱらいにはこれが一番有効って昔母さんに教わったからなぁ。まさかこんな形で役に立つとは、ありがとう母さん!

一回冷静になってお互いの意見を一致させたところ、彼女の名前は「安達あだち小夏こなつ

彼女の話によると、彼女の元カレは同姓同名で、年齢も顔も全く同じ、性格は…まぁ褒めたもんじゃない。そんな男が浮かび上がった。

彼女はその男とお付き合いをしていたが、もう飽きたといって振られたのだとか。

仮にも同姓同名で顔も瓜二つのやつがそんなことしてるなんて許せない!と思ったが同じ歳でこの辺に住んでいる同姓同名ならわかるはず。だが記憶にない。どういうことなんだ?

そう悩んでいると

「ねぇほんとにあの人じゃないの?」

「だからそんなクズと一緒にするな、俺はただの気分屋で陰キャのいって普通の高校生だ」

「あんまり胸張って言えることじゃないと思うんだけど。」

そんなこんなである程度話せるようになったが、例の男がどうしても気になる。この少女を助けたいとかそんなことを言えたらかっこいいんだろうけど、生憎そんなにかっこいいことは僕のイメージとは違う。ただ単に気になるのだ、どんな人間か。だってそうだろ?

同姓同名で顔も似てる、というか瓜二つの人間なんて気になるに決まってる。

この雨は偶然か必然か、この雨によって僕の人生は「普通」じゃなくなっていった。

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