第8話 : ユニークシリーズ
パパーンと、何も無い空中に現れた討伐完了の文字とともに子気味良い音が鳴る。
「つ、強かったぁ…………」
ポリゴンとなって消えていったミミック。
残されたハチはその場にペタンと座り込んだ。
「グルル!」
「トト!攻撃ありがとう!」
大きな姿のまま、首をハチに擦り付ける。
この達成感は、強敵と戦う事でしか得られない。ゲーマーは、この時のために生きていた。
「このダンジョンはこれで終わりかな?」
褒めて欲しいトトを撫でてやると、気持ちよさそうに喉を鳴らす。
「疲れたけど、楽しかった!!」
元気を取り戻し立ち上がる。
「グルァ!」
立ち上がったハチに報せるように、トトが顎で背後を示す。振り返れば、激闘に見合う、新しい宝箱が部屋の中央で輝いていた。
「また宝箱……、今度は開けても何も出てこないよね?」
警戒して暗闇の天井を見上げながら、出現した宝箱へと近づく。恐る恐る蓋に手を当てて、それから外側を注意深く観察する。
何の変哲もない、普通の宝箱だ。
「よ、よしっ。開けるね……」
息を飲み、ゆっくりと蓋を持ち上げる。
ここのボスがミミックでなければ、この瞬間が最もワクワクする場面だった。報酬を前にして喜びよりも緊張が勝ることが、ボス戦との激闘ぶりを感じられる。
《ミミックの上蓋×10
ミミックの頑丈箱×5
浮遊石×14
ユニークシリーズ【夜宴】》
「――!!!!!」
獲得ウィンドウに並ぶ文字列に、緊張など彼方へと吹き飛ばし。満面の笑みで手を上げる。
「ユニークシリーズだって!!トト!新しい装備だよ!!僕だけの!!!やったよ!!」
「グラアァァ!!」
ハチが嬉しそうに飛び跳ね、トトも主人の喜びを受けて嬉しそうに鳴く。
ーーーーーーーーーー
・真紅の髪飾り
・夜宴の鎧【夜宴】
・夜宴の袴【夜宴】
・夜宴の靴【夜宴】
・紅月の指輪
・常闇の翼
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
字面が既に強そうである。
思い返してみれば、ハチは未だ全身初期装備のままだ。そもそも初期装備でこのダンジョンをクリア出来ること自体おかしな話なのだが、美少女なのにオシャレしないとは美少女への冒涜である。
「いいねいいね!早くもユニーク装備だ!早速装備を」
ウィンドウをポチポチして、浮かれたハチは全身の装備を切り替える。服が光を帯び、新しい装備へと姿が変わる。
ーーーーーーー真紅の髪飾りーーーーーー
紅い月に染められて、魔力の多く篭っている。
知力+50
魔力+50
ーーーーーーー夜宴の鎧【夜宴】ーーーーーーーー
夜の宴が開く。古の吸血鬼が好んだと言い伝えがある。
防御力+50
夜間時追加防御力+50
ーーーーーーー夜宴の袴【夜宴】ーーーーーーー
夜の宴が開く。誰もが魅了される魔力を帯びている。
防御力+20
夜間時追加効果 実力の低い相手への魅了
(クールタイム10秒)
ーーーーーーー夜宴の靴【夜宴】ーーーーーーーー
夜の宴が開く。かなりの衝撃を吸収する。
防御力+15
敏捷+30
夜間時追加効果 落下ダメージ無効
ーーーーーーーー紅月の指輪ーーーーーーーー
紅い月は夜の王を祝福する。
魔力+50
攻撃弱点命中時、自身の体力最大値の2%を回復
ーーーーーーーー常闇の
汝は王に選ばれた。その翼は空を支配する証。
敏捷+10
10秒間、空を飛ぶことが可能。
クールタイム10秒
《呪》外すことはできない。
鎧はダンジョンの灯りを反射し、美しく輝く。護る部分には固く丈夫な鉱石が使用され、それ以外の部分も肌触りの良い布で繋がれている。露出も多くなく、薄い紅と黒の配色が派手さを消している。右側面の小さなリボンを除けばかなりの高評価だろう。
袴は女性アバター仕様なのか、どちらかと言うとスカートに近く、フリフリした要素が目立つものの、配色は鎧と変わらず軽く丈夫な素材のために動きにくさも感じない。
靴はとにかく軽い。紅い装飾が特徴的で、見た目以上に伸縮性があるように感じる。
髪飾りは紅い三日月型。背面の白金が三日月を全面に押し出している。
「………………」
さすがのハチも、あまりに強力な効果に声も出ないか。
「なんだこりゃぁぁぁぁぁ?!の、の、呪い?!外せないって……
ハチは悲鳴に近い、喜びとは反対の反応を示した。
視線の先は
そう、ハチの背中には、黒光りの美しい、ツルツルした質感の
ハチの呼吸に合わせて上下する翼は、装備には全く見えない。ハチに元から生えていたかのように居座ったそれは、実に堂々とした振る舞いで機能している。
「これ!外せないの?!えっ、これで街中歩くの僕?!」
そんな装備に、大いに戸惑う美少女。
トトは突如として主人に現れた黒い翼に興味津々。随分気になるようで、鼻先を翼につんつんして興味を示す。
「ひゃんっ」
つつかれた瞬間、ハチの身体には思いがけない不思議な感覚が伝う。背中をこっそりなぞられた感覚に近い、しかしより敏感にこそばゆさを感じる。
「えっ、えっ、え?な、何今の感覚……」
どうやら、本当に体の一部になっているらしい。
普通は生えていない部位であるだけに、その特殊な感覚に過敏になっているのだろう。
「ひゃっ、ちょ、トト!そ、それっ、や、やめて……ひゃんっ」
主人の大きな反応が楽しいのか。身体をビクッとさせて震えるハチに、トトの興味がさらに増していく。
というか、あれだけ豪語しておいて、ハチも随分美少女が板に付いてきた。つつかれる度に、可愛いらしい悲鳴を上げる。……若干不純である。叫び声が。
「こらトト!!もう辞めて!」
「グル……キュア?」
手を伸ばしてトトを静止する。
さすがにやりすぎたと判断したようで、トトは自ら小さくなるとハチの肩にちょこんと降りた。
精一杯頬に顔を当てているのは謝罪の意であろう。
「ふぅ……、とりあえずこの装備は後でどうにかしよう。呪いってことは、解呪できる術があるはずだから」
ため息混じりに視線を向ける。意識して背中に力を込めれば、それに応じて翼もピクピクと動く。
「それで他の装備は……うん。やっぱり強い!武器落ちなかったのはアレだけど。ユニーク装備にはセット効果があるんだ!」
セット効果とは、同系統のシリーズ装備を指定数身に着けている場合、特殊な効果を発揮すること。
ーーーーー夜宴ーーーーー
セット : 2
夜間、敏捷+20 攻撃+20
防御+20 魔力+20
セット : 3
全てのデバフ効果量が半減
ーーーーーーーーーーーーー
「うーん、スペの時の感覚だけど、ユニークにしてはセット効果か地味……かも。――でも!」
ハチは目を輝かせてウィンドウの文字をなぞる。
「このセット3はいい!!デバフ効果ってことは、吸血鬼種族のデメリットも軽減されるよね!!」
吸血鬼種には、元から大きなデメリット効果がある。
エルフとの混血とはいえ、昼間のステータス低下は今後の攻略に小さくない不安があった。それが半減されるのは、ハチにとって他とない嬉しい効果だ。
「あとは、レベルアップのポイントを振って……わぁ!こんなにレベル上がったんだ!」
ーーー【ハチ レベルup 19→27】ーーー
ステータスポイントを振り分けてください。
残り49pt
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
推奨レベルが36、推奨人数も10人のボスエネミーをたった一人でクリアしたのだから、当然と言えば当然である。
「ステータスはどうしようかなぁ。今回の装備で防御力は沢山上がったから、やっぱり攻撃力だよね。んー、せっかく魔力も上がったから、魔力を使う攻撃も探してみたいよね。ってことは知力と魔力も?でも、魔力を使う属性攻撃って、別に知力は要らないんだよなぁ。むむむ、どうしよう」
ここから先のステータスの割り振り方は、非常に大事なのだ。何せ、ここから先はレベルも上がりにくくなり、それに伴いステータスの伸び幅も落ちてくる。つまり、途中での戦闘スタイルの変更は難しい。
ここで下手にポイントを割り振り、妙な縛りプレイを課せられるプレイヤーも多々いる。そういうプレイヤーほど、クソゲーだなんだと悪評をまき散らし消えていく。
文句を言われる仕様を作った方が悪いと言われればそれまでだが、苦労して作ったゲームをプレイヤー側の都合で酷評される開発側も可哀想だし、せっかく買ったゲームを満足に楽しめずに終わってしまうユーザーも実に滑稽で可哀想である。
故にハチは、幾度となく悩み、検討し、最善を尽くす。
結果がどうであれ、決して後悔することのないように。
「………………決めた!!こうする!」
手際よくポイントを割り振ったハチ。
どのようなステータスになったのか。気になるところではあるが――
「トト!早く戻って探索の続きしよ!」
「キュアッ!」
その満面の笑みを眺めてやれば、きっと満足のいく決断ができたのだろうと確信できるはずだ。
ーーーーーー【ハチ Lv27】ーーーーーー
ステータス上昇値
体力 : 340ー>400 魔力 : 30ー>65
攻撃 : 100ー>170 敏捷 : 70ー>150
幸運 : 90ー>120
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーー【ハチ Lv27】ーーーーーー
ステータス(装備あり)
体力 : 400 魔力 : 185
攻撃 : 190 防御 : 105(+50)
敏捷 :210 知力 : 50 幸運 : 120
攻撃弱点命中時、自身の体力最大値の2%を回復
全てのデバフ効果量が半減
10秒間、空を飛ぶことが可能
アクセサリー《呪》
(落下ダメージ無効)
(実力の低い相手への魅了)
※()内は夜間時効果
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