第6話 : ノーダメージにより続行です
「やった、やったあぁぁぁぁぁぁ!!疲れたけど、倒せた!達成感半端ないや!」
「キュア!」
「トト!!やっぱりすごいよトトは!ありがとね!」
飛んできたトトに、ハチが抱きついて抱きしめて。
短いようで長かったボス戦をクリアし、ハチは達成感に浸る。相性は圧倒的に不利、レベル差も大きく、ソロ討伐。まるで不可能な条件下で、それでもハチは討伐を成功させた。
彼女の技術とトトの存在が無ければ不可能だったそれは、まさに奇跡の確率だ。
「そうだ、ドロップ品!これだけ苦労したんだから、絶対いい物だよ!」
そう叫んで倒した地面の近くにしゃがみこむ。
《深層コウモリの羽×2
深層コウモリの皮×5
最奥への鍵×1》
「最奥への鍵?このダンジョン、まだ奥があるみたいだね。素材は……レアリティ5?!それって…………高いのかな?」
スペリオルの知識は最高級でも、つい昨日発売されたばかりのエクステンドの情報などあるはずもない。
「スペリオルだと、最高レアリティは9だったから……序盤にしては高いかな?とりあえず確保だけしておいて、帰ってから調べてみよう。それより……」
ハチは手に入れたドロップ品の中の、最も気になる道具――最奥への鍵を手の平に乗せる。
最奥と名付ける程だ。
この空間の更に奥に、この鍵を使用出来る場所が存在するという証。
「今のボスもかなり強かったよね。……最奥となると、もっと強いかも。どうしようかトト」
「キュアア!」
結論は既に出ている。
ハチの瞳から溢れ出る好奇心は、元気いっぱいのトトの返事でさらに加速する。ここまで来て、引き返すという選択肢は有り得ない。
「よし!!奥に進もう!もっとすごいお宝があるかも!」
「キュゥアア!」
火のついたハチを止める者はいない。
「キュゥ?」
歩き始めたところで、飛んでいたトトがハチの左肩に止まって羽を休める。
小さな額をハチの首に擦り付け、右側とは違う違和感に疑問の鳴き声を発する。
「どうしたの?……あ、髪の毛切れちゃったんだっけ。少し頭の重さが違う……かも?回避の時邪魔になるし、切ってもいいかなー」
「キュア!!キュゥゥ!!」
「えぇっ?な、なに?どうしたのトト?」
美少女ハチ、中身はオシャレなど興味ナシの男である。
どれだけ可愛かろうと、男である。
女性のヘアスタイルがどれだけ重要なものか、人間では無いトトの方がその重要性を理解していた。
適当に短剣で髪を切ろうとする主人を必死に止める。
よくできたドラゴンである。
「切らない方がいい?そっかー。でも、初めからこの髪型よくわからないんだ。左右で結んでるのにすごく後ろの方だし、なんで耳元しか結んでないのかな?」
ゲームの初期アバターの髪型に文句ばかり。
これだからモテないのだ。
「キュっ!キュウキュウ!!」
「え、可愛い?……ご、ごめん、その……なんか恥ずかしいや。でもそっか、褒めてくれてるんだよね」
(??なんでだろ。可愛いって、いつもなら嬉しくないんだけどな)
頬を染めてぎこちなく笑うハチ。
トトに褒められて照れている。実に絵になる状況だが、あいにく周囲は暗く人はいない。
むしろ、美少女となっているハチは別方面の方々から熱烈にモテそうである。もし、大きなお友達が見ていたらならば、その可愛さに昏倒していたことだろう。
無自覚で人を殺めるハチ、恐ろしい子。
「と、とにかく!髪はこのままにしておくから、もう少し警戒しよ!結構奥まで来たと思うけど……まだまだ洞窟だね」
逸れ始めていた話と意識に軌道修正をかけ、周囲を警戒しながら歩を進める。ボスコウモリと戦った広い空洞を、もうかなりの距離歩いている。だが、まだまだ先は暗闇のまま。
いったいどれだけ奥へ続いているのか。
「さっきからモンスターも出てこない。もしかして……見落としたとか?やだなぁ……もう一周はしたくない」
同じ道を何周もするのは退屈。
モンスターが出現せず、ただ歩いているだけだと尚更に。
しかし、この暗闇とこの広さ。
身体を動かしたいハチには、既に充分退屈だ。
「……そうだ!ボスを倒してレベルが上がってるはず!」
退屈しのぎに、ステータス画面のログを開く。
レベルアップの通知がしっかり残っていた。
ーーー【ハチ レベルup 10→19】ーーー
ステータスポイントを振り分けてください。
残り40pt
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
レベルの高いボスをソロで討伐したのだ。
手に入れた経験値も、たった1匹で雑魚コウモリ2時間分の上昇量である。
「ステータスは……今の戦闘スタイルを続けるなら速度と攻撃かな。それと幸運。MPは……職業的に無くてもいい……のかな?端数はHPに振っておこう!」
ーーーーーー【ハチ Lv19】ーーーーーー
ステータス上昇値
体力 : 200ー>340
攻撃 : 50ー>100 敏捷 : 30ー>70
幸運 : 50ー>90
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
レベル1の頃と比べるまでもなく、その数値は
これはゲーマー特有の病気のようなもの。
一般人は決して染まらぬよう、数字に過度な喜びを見出すのはやめておいた方がいい。
「キュア?!」
「んー?大丈夫だよトト。僕、凄く強くなったんだ!」
「キュウウッ!」
「そうだねー、次の戦闘では僕の攻撃も期待してね!」
「キュッ、キュッ!」
思考が完全に上の空。
上がった数値に思いを馳せて、ハチはトトの訴える警告に全く気が付かない。結果――
「うわぁっ?!」
地面に開いた手のひらほどの穴に躓き盛大に転げる。
見事に顔面から、地面と強烈な口付けを交わす。
現実ならば鼻血では済まないが、ここはVRゲームの中。この程度の衝撃でダメージ判定はなし。
「な、なに?変な窪みが……」
顔を起こしたハチの鼻は少し赤い。ダメージはゼロでもリアリティを追い求めるスペリオルのこだわりが窺える。
「変な形の窪みだ……。なんだろ、何かを置くのかな?」
真っ暗闇で、どこまでも続く地面に隠された不自然な窪み。ハチが転げていなければ見つからなかっただろう。
運が良いのか悪いのか。
幸運値が影響しているのならば、これは良い方であってほしい。ハチの鼻の赤色は、致し方ない犠牲となった。
「今のところ、ここにピッタリ嵌められそうなアイテムは持ってないなぁ。見たところ他に何も無さそうだし」
顔を近づけて穴をよく観察する。
綺麗な四角形の形をしている以外は、特段変わった部分も見られない。
ペタペタと直接触ってみるが、地面と同じ感触が伝わるだけで何も起こらず。
「仕方ない。アイテムがないか探しに――ひゃぁっ?!」
落下する一粒の雫。
洞窟に再度響き渡る美少女の叫び声。
天井から落ちてきた雫が、偶然にも四つん這いになっていたハチの首筋に直撃。
突然の冷たい衝撃に驚いたハチは、なんとも可愛い悲鳴をあげ、体を支えていた左腕を危うく滑らせてしまう。
――ガコッ
頭と地面が再び接触するのを避けようと、体が反射的に右腕で体を支えようと力を入れる。
窪みの上を調査していた右腕は、結果的に何も無いはずの窪みを押した。
するとどうだろう。
窪みだと思われたその窪みの底から、鈍い音が招かれる。
「え、え?はい?」
驚くのも無理は無い。
何かを嵌めるための窪みが、実は凹んだボタンだった。
――ゴゴゴゴゴゴゴ
ハチの思考が追いつかぬままに、洞窟全体が振動を始める。一際大きくなった瞬間、ハチの右斜め前方の壁が大きく反応を示す。
「光った!!」
姿勢を低くしたハチも、その反応にすぐさま気がつく。
淡い光は、壁の後ろ――
振動によって壁に亀裂が入り、脆くなった壁は重さに耐えきれず下部から崩れ落ちていく。
ガラガラと音を立てて崩れる様もあまりにリアル。
崩れた岩石が青白いポリゴンになって消えていかなければ、現実となんら変わりがない。
動画でも撮っておけば間違いなく騙されるだろう。
「うわぁ……おっきいね。壁の後ろにこんな扉が隠されていたなんて」
壁が完全に崩れ去ると、そこには洞窟全体を照らせるほどの淡い光を放つ、実に5メートル以上ある扉が存在していた。
四方を囲む白い石柱が光を帯び、描かれた金色の模様が強調される。両開きの扉には取っ手がなく、ちょうどハチの頭の高さに付いた穴がその隙間を繋ぎ止めている。
その場所だけ妙に銀色の装飾が施されていて、左右に飾られているのは宝箱を模した銀の箱である。
「これ、鍵穴?キラキラしてて、目が痛くなりそう……」
「キュウゥゥ……」
ハチは現れた扉の前に立ち、そっと扉に触れる。
既に、この扉を開ける方法は見当がついていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
鍵が必要です
必要アイテム : 最奥への鍵×1(所持済み)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「さっき手に入れた鍵、ここにちょうど合う大きさだ」
インベントリから手のひらサイズの銀色の鍵を取り出す。そのまま穴に合わせて刺し込む。
ピッタリと合った鍵はハチの手から離れ、勝手に扉の穴へ吸い込まれていく。
奥まで刺し込まれた鍵。
それに反応して、石柱の光が中央の宝箱に集まる。
光が宝箱を覆い尽くすと、軽快な音とともに鍵が90度回転した。
――ガチャ
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