第4話 : 初めてのダンジョン攻略
「うおぉぉぉりゃぁぁぁぁ!!」
頭上から飛びかかるコウモリを、華麗なステップで回避して剣で突き刺す。
"クリティカル!!"
口から剣を刺され、コウモリはクリティカル判定となり即死する。
続け様に、今度は2匹のはぐれコウモリ。
「キィィィィィ!!」
甲高い音が洞窟中に響き渡る。
洞窟コウモリの攻撃方法は、空気の振動による超音波での遠距離攻撃。甲高い音とは別に、空気中に透明な歪みが生じているのが見て取れる。
魔法ほどの速度では無いが、範囲を拡大させながら確実にハチたちへ迫ってくる。
当たればダメージと共に、大きなノックバックが発生するため、出来れば当たらずに倒したい。
「もう見飽きたよ!」
比較的広い空間の洞窟で、ハチは壁を蹴って空中のコウモリに近づく。ハチとコウモリの間には、超音波の壁で阻まれているのだが……
――シェルステップ
クールタイムは8秒。
空中に足場を作り出し、一度だけ空中での回避を可能にする。
ハチは空中で超音波をうまく避け、二体のコウモリの口に剣をねじ込む。
"クリティカル!!"
残りのコウモリを倒し切り、ハチは地面へと着地。
直ぐにトトがハチの元へ飛んでくる。
「もう……この洞窟コウモリ多すぎるよね」
ーーー【ハチ レベルup 9→10】ーーー
ステータスポイントを振り分けてください。
残り30pt
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハチが洞窟に入ってから、実に2時間が経過している。
その間、ハチたちは襲いかかるコウモリを斬っては投げ、燃やしては突き刺し……、動きを完璧に見切れるようになるまで、そう長くはかからなかった。
「それにしても、幸運滝の洞窟って名前なのに、コウモリしか居ないね。宝箱もぜんぜん見当たらないし、この通路もどこまで奥があるのか分からないや」
「キュウ?」
「大丈夫。まだ引き返さないよ。ここまで来たなら、最奥まで辿り着くのが製作者への礼儀ってやつだし!」
それでこそゲーマーハチ。
同じ敵や発見できない宝箱に不満はあれど、長時間のゲームに一切の疲れを見せていない。
「キュアっ!!」
その元気につられ、トトも楽しげな声を上げる。
「よしっ!先に進もう!」
コウモリを倒し、暗い洞窟の奥に進んでいく。
暗闇を照らしているのは、森で拾った枝にこれまた森産の
そして、外部からの衝撃で淡い光を放つ
真っ暗とは表現出来ない暗闇だが、視界が不安定であることは事実である。
「んー、また下に降りる穴だ。下が見えないのは怖いし、トト、またあれをするよ」
「キュウ!!」
ハチは、近くにあった石を松明に使った良燃草で包む。
「お願いトト」
その石にトトが小さな炎を吐く。
炎に触れた良燃草は、名の通り一瞬にして火がつく。
「これを下に落として……」
燃え尽きる前に、ハチは燃え上がる石を穴の底へ落とした。周囲を薄く照らしながら落ちていった石は、カツーンと子気味良い音を響かせて地面に当たり、次第に火も消えて行った。
「落下ダメージに気をつけて、飛び込むよ!」
「キキュッ!」
下の情報を確認し、その穴へとジャンプ。
恐れを知らない行動に見えるが、スペリオル・ソウルで幾千もの洞窟型ダンジョンをソロ攻略してきたハチには朝飯前のごく普通の行動である。
落下ダメージを喰らわないよう、適度に壁を蹴って勢いを殺しながら上手く穴の底に着地する。
トトは肩に捕まったまま、先に広がる通路の天井の一点を見つめている。
「まだ先は長そうだね。……トト?どうしたの」
「グルルルルル」
ハチが声をかけると、突如としてトトが唸り声を上げて威嚇を始める。ハチもその方向に視線を向け、目を凝らして暗闇を睨みつける。
ほとんど真っ暗闇の中、徐々に目が慣れてくるという
「げっ、もしかして……ここって」
その暗闇、……暗闇だと思っていた
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【BOSSEnemy】深層のコウモリ
推奨レベル 24
推奨人数 5
※警告 プレイヤーにはレベルが低すぎます!
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天井からぶら下がる、ボスモンスターの背中であった。
「でっか!!しかも推奨レベル24?!……僕のレベル、まだ10なんだけど……もしかして、やばい?」
冷や汗を流し、眉をピクリとさせて一歩後退る。
まだボスはハチの存在に気がついていない。このまま慎重に引き返せば、気が付かれずに戻れる。
「ゆっくり、ゆっくり戻って…………」
しかし、ここでハチに不幸が舞い降りる。
「キィィィィィッッ!!」
ハチの後方やや上から、彼女にはやや聞き飽きた甲高い鳴き声が空洞に響き渡る。
咄嗟の判断で右の壁際に回避しなければ、ダメージを受けていたはずだ。
「ヤバっ、小さいコウモリ……上の狩り残しがいたの?!」
上層に潜むコウモリは全て倒したと思い込んでいたが、実は、ここへ落ちるまでの穴の途中に、数匹潜んでいた。
ソロ攻略でモンスターの狩り残しは致命傷になりかねない。ハチはそれを理解し、絶対に狩り逃しの無いよう進んできた。
だが、どれだけ感覚の優れたハチであっても、暗闇の洞窟で二時間以上。そして、ようやく発見した巨大穴を前に集中力を欠いてしまった。
これだけ長時間の探索にこの悪環境。小さなコウモリ2匹を見逃す程度の油断を咎めるものはいないだろう。
「サイアクだ!!」
咎める者はおらずとも、この状況が無くなる訳では無い。ハチは己の失態に文句を吐きつつ、素早い判断で対処へ移行する。
コウモリの超音波攻撃を避け、勢いを落とすことなく壁を走り空中のコウモリの懐へ素早く飛び込む。
"クリティカル!!"
剣を抜きざまに一匹を突き刺し、
――シェルステップ
華麗な空中での切り返しでもう一匹の片羽を斬り落とす。
「はああぁっ!!」
羽を失い地面に落ちてきたコウモリを、遠慮なく串刺しにして倒す。
――ピロン
《新たなスキルを獲得。"ヒットフォーカス"》
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スキル ヒットフォーカス
取得条件 モンスターの弱点に100回攻撃
対象の弱点部位に命中させるとダメージが二倍
また、その時の武器耐久値減少量を半減
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プレイヤースキルのおかげで、ハチのレベル差に関係なく急所を狙う戦闘スタイルとは最高に相性の良いスキルが手に入る。
しかし、そんなスキルを気にしている余裕は、現在のハチには無い。
想定外の奇襲には何とか対応出来たものの、今の戦闘でこれだけの物音を立ててしまったのだ。
「グルルルルル」
「えっと……見つかった、よね」
「チチチッ、チチチチ」
小さく聞こえるその音がハチの背中に悪寒を走らせる。ゆっくり振り返ったハチは、暗闇に光る黄色の瞳と目が合った。
「こ、こんにち……は」
「キイイイイイイィィィィィィィィッッッッッッ!!」
引きつった笑みで笑った直後、洞窟全体を揺らす超高音の咆哮がハチを襲った。
「うあぁ、み、耳……が」
頭の中を直接殴られたような鋭い痛みを感じ、思わず耳を塞ぎその場にしゃがみこむ。
《状態異常 : スタン》
身体が一瞬硬直する。
スタンは、ダメージ判定は無いが身体に大きな影響を受ける外的要因があった際に動きを制限する状態異常。
敵の妨害行動の1つであると同時に、硬直によって生まれる感覚の遮断によって現実の身体への影響を上手く軽減している。
スキルや魔法の中にはそれを誘発する技もあるが、今回は前者の結果である。
「キキキキッ」
咆哮が止み、硬直が解ける。
しかし、その硬直から回復する隙を敵は待ってくれない。咆哮直後にハチ目掛けて大きな羽を振るう。
――エアスラント
そこから生み出される風が圧縮され、薄く鋭い刃となって放たれる。風属性のスキル。
「う……、ごけっ」
脚に全力で力を込め、硬直解除を待つしかない。
あわや直撃――
「うわあぁぁぁぁ!!」
すんでのところで硬直が解け、力を入れていた脚が突如動き出して制御を失い前方へ転がり出す。
盛大に転んだ形になったものの、コウモリの一撃を避けることに成功。右手を地面について体を持ち上げ、バク転を利用して素早く立ち上がったハチは、剣を握ってコウモリに向き直る。
「もう武器がボロボロだ。創り直さないと」
――特殊スキル : 武具生成・二刀短剣
このゲーム内での武器や防具、その他道具には、全て耐久値が設定されている。長く使用したり、強いダメージを負うと耐久値が減り、ゼロになると破壊されてしまう。
そのため、武器の手入れや新調は必須内容である。
当然そのシステムは元伝説職バトルマスターの専用スキルと言えど例外ではなく、同じ武器を長く使っていれば破壊されてしまう。
確かに、一度生成し直せば済む話だが、モンスターなどの攻撃の際に破壊されると、"武器破壊"という特殊な状態異常が発生し、プレイヤーに現在HP50%分のダメージが入る。
さらに、握っていた武器がいきなり消滅するというリスクまであるので、隙を見て生成し直す必要がある。
※武器破壊の状態異常は、ウェポンマスタースキルに関係なく全ての武器で発生する。
「あ、それと……ステータスポイントも割り振っておこう。貯めておけるほど余裕のある相手じゃないし、少し隙を作らなきゃ」
持ち替えた武器を構え、先制して動き出す。
――エアスラント
迫り来るハチへ再び大きく羽を動かし、強力な風を生み出す。
「それはもう見たよ!!」
目の前で生み出された風の刃を、ハチはスライディングで容易く通り抜け、一気に巨大コウモリの真下に入り込む。
――ヒットフォーカス
巨大コウモリの弱点は3つ。
両羽の根元と首。
逆さで天井にぶら下がっているため、ハチは潜り込んだ頭へと二連の斬撃を叩き込みそのまま反対に通り抜ける。
この巨体で身体を貫くなどという芸当は不可能なので、地道に攻撃を繰り返しつつ、隙を見て弱点を付いて行くしかない。
「キキイィィ!」
「キュアッ!!」
――火炎ブレス・弱
追撃とばかりに、走り去るハチの肩から火炎の追加ダメージが入る。威力が下がる代わりに溜めの要らないブレス弱。
その技選択にはモンスターAIには賢すぎると褒めたくなる。
叫び声を上げて羽を振り回すが、完全に抜けきったハチには当たらない。さらに、巨大な身体である故に体の向きを変えるのに時間がかかる。
ポチポチポチポチ…………
ーーーーーー【ハチ Lv10】ーーーーーー
ステータス上昇
体力 : 100ー>200 魔力 : 10ー>30
攻撃 : 20ー>50 敏捷 : 10ー>30
幸運 : 10ー>50
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その隙に、ここまで貯めておいたステータスポイントを素早く割り振るハチ。
バトルマスターという元々高いステータスに加え、最強弱者のスキルによってステータス数値以上の強さになっている。
「うん。こんな感じかな。防御系は、どうせ一撃でも当たれば即死だからナシ。クリティカルダメージの量に関係する幸運値と攻撃には多めに、回避で立ち回るから敏捷。体力は……もしもの落下ダメージのために少しだけ。……あれ、なんか脳筋みたいなステータスになっちゃった」
「キュアッ!!」
スペリオル・ソウル時代のあらゆる武器で手堅く戦うハチの戦闘スタイルとは大きく離れた、なんとも危なげなステータスになってしまう。
思うところはあるものの、現状を考えると最前の選択。
今は割り切るしかないと笑う。
「ここまでやったんだ。絶対倒す!!」
「キュウゥアアア!!」
その腹いせに、ハチは目の前の巨大コウモリを絶対に倒してやると決意し、こちらを睨みつける敵と正面から対峙した。
「行くよ、トト!」
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