雨も滴るいい男?

暴徒たちは立ち尽くしている。狂犬ならぬ狂人の前に恐れおののいた人たちは立ち尽くしている。


「これはどういう事かしら」


「っ、S級冒険者!」


「“韋駄天のフーカ”!」


「フーカ様、離れてください!この男は狂っています!」



周りの人達に事情を聴こうとすれば戻ってくるのは遠ざける言葉。ただただSを思っての言動が重ねられる。


「私はここで何が起きたかしりたいの。教えなさい」


「そ、それが。そこに倒れている娘が盗みを働いたから成敗しようと思い」


「盗みって、ここまでする必要はないですよね?衛兵を呼びに行くべきだったと思いますが?」


「この子教会から盗んだんですよ!?」


「それでも、衛兵を呼ぶべきでした。ここは私が引き受けます」



辰也の前に歩いていくと自然に人がモーゼの奇跡の様に分かれ、道をあけてくれる。


彼はお構いなしに叫び続ける。目はうつろで焦点もあっておらず、辰也は精神的に限界なのが見てわかる。


「その子の傷を――」


「こいつに触んな!」


「日向君、私は雛菊風香、クラスメイト――」


「S級なんてくそくらえっ!栄誉だの正義だのほざくだけの薄っぺらいクソガキ共がっ!」


限界寸前だとしても、辰也は雨でどろどろになっている少女に誰も近づけさせない。私の事も覚えていないぐらい錯乱していてただひたすらに罵倒を続けている。



S級が来たことで有象無象は納得したらしく、立ち尽くしていた人の森は薄くなっていく。


目の前でいまだに睨みを利かしている辰也に目を向け、覚悟を決める。


「仕方ないわね。“睡眠魔法スリープ”――」


「ちょっと待って、何してるの」


「...あなたは?」


「そこであんたが魔法で伸ばした奴の下宿先の娘。あんたS級のフーカでしょ?異世界からやってきたっていう。タツヤになんのよう?」


パタパタと雨の雫が地面に落ちる静寂の最中、雨の中を走ってきたポニーテールの町娘は辰也と似た目で私を睨んでいた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る