スタートラインは遠い

「で、あんたは?こいつの何様のつもり゛っ」


「ちょっとお姉ちゃん!S級の冒険者に何言ってんのよ、このばか!」


辰也の前で威嚇するように立っていた町娘に急に脳天チョップが入った。妹らしい子は慌てて謝ったりしてきた。



当然、妹(仮)の反応の方がこの世界では普通になっている。姉(仮)の様に盾突く事はほぼない。


この世界はどこまでも弱肉強食であり、強さが全てであるから。


日本とは違うこの世界に染まってしまっていた私に、辰也と町娘の反応は新鮮だった。だから興味を持ってしまった。



「その青年は私の知り合いなの。だから世話は私が見るわ」


「知り合いだからって何?世話を見るのはタツヤだけでもう一人の子はどうでもいいんでしょ?タツヤなら――」


「だからお姉ちゃんは黙ってて!」


「むぐぐぁあああ!」


「その子も私が責任をもって引き受けるわよ。これでもS 級冒険者ですから」


図星だと、彼女は理解している。辰也に、この状況に陥ったクラスメイトしか眼中になかったのは自分でも理解している。


でも、仕方ないでしょう?


人はこの世界で簡単に死ぬ。


クラスメイトも、チート持ちも、王侯貴族も。運が悪ければ、当たり所が悪ければ、病にかかってしまい、簡単に死んじゃった。


S級になれば死なない人たちも増えたけど、逆に死なないように努力しなければならない人たちが増えてしまった。


S級でも、限度がある。



「ごめん、けれどタツヤは私が面倒を見る。この子も私が面倒を見る」


「でもあなたにはこの人たちを――」


救える可能性が低い。


治療にはどうしてもお金がかかってしまう。そして辰也はその子を暴徒たちから守った傷がたくさんある。


町娘の技術でも備えでも治療するのは難しいと思う。


「さっきから見下して何様のつもり!?私たちだって一生懸命生きて、助けようとしているのに地位もお金もあるからと偽善者ぶって!邪魔しないで!」


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!後でお姉ちゃんに言い聞かせておくのでごめんなさい!うちの宿は西の大通りで大門から二番目の路地にある猫音子停です!

ちょっとお姉ちゃん!」



本当に、今更辰也に興味を持ってしまった事を後悔してしまうと思った。


何故、今更興味をひかれてしまうのだろう。

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