逸般人の恋

憤怒

「てめぇらという奴らがいながらぁ!」


雨が全てを洗い流している。


「何がS級だっ!何が召喚されし勇者だっ!何が英雄だっ!」


路面に流れている血も、荒ぶる暴徒の激情も、雨に流されていく。


「こんな小娘に振り向きもせずに、ノブレスオブリージュなんか高を括りやがって!」


ただ一人、クラスメイトの日向辰也を除いて。



クラスが異世界転移に巻き込まれて一年は立つ。異世界に来て大半は戸惑い、少数は喜び、全員が慣れない環境で必死だった。


必死だったけど、力は授かっていた。異世界転移の恩恵、というものだと思う。


それは決定的だった。力あるクラスメイトは全員高ランクの冒険者パーティーや国の騎士団などに所属し、力がないものは音信不通になったのが多い。後から死んでしまったのもいると聞いたし、姿をくらましたのもいると思う。


それだけ素質というものを残酷に見せつける世界だから。



日向辰也は後者だった。いや、かなり初期の頃には見切りをつけていたらしく、転移して一か月もたたないうちに行方を最初にくらました。


その彼が今目の前で町娘にしては少しみすぼらしく、血を流している少女を抱きかかえて罵詈雑言を吐いている。


私は通りかかっただけだったけど、さっきの言葉を聞いて立ち止まってしまった。別に下層の者たちがこういう目にあうのは珍しくもないし、時間がある時はあとから助けて知り合いの孤児院に預けている。


だが、彼は、日向辰也はこの一年どういう人生を送ってこればこんな空気を読まず、暴徒にさえ単独で立ち向かうような精神になったのか、興味を持った。



持ってしまった。


そして、興味を持ったことを一生後悔し、この瞬間を、これからを一生忘れない。

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