洞窟を照らす灯
「ぬわぁ~にぃ~がぁ~ウィンドウショッピングですかー!!」
「クハハ!ほらほら、死神の辛気臭い顔なんか見ておらんで、周りの景色を見たらどうだ?港区の観覧車からみる黄昏時の景色なんて結構いいもんだぜ?」
「ぅぐぅう...」
確かに、確かに綺麗だけどっ!
本当にむかつく。
癪だけど言われた通りに外の景色を見る。ちょうど観覧車の頂点に来たし、港と日が暮れる都市部も合わさって幻想的に見える。
この死んだような都市とごった返している湾に一つの希望が消えうるような夕焼けは綺麗。
そしてそれをかすかな笑顔で見ている死神君に目がとらわれてしまう。顔を正面を向いている、けれど横目で静かに沈む太陽をジッと見ている。
その横眼に見とれてしまっている。
今日はさんざんこいつの思惑に翻弄され、連れまわされ、わがままに付き合わされた。
いや、わがまま、というより。私を楽しませようと、彼なりに‘普通’を見せてくれていた。
残酷なまでな優しさ。この呪いを与えた奴は、それ以上の呪いをどんどんかぶせてくる。
本当に、ムカつく。
「結局、今だけの事なのよね、これって」
「クヒヒ、今までにない卑屈さだな。怖いのか?」
「はぁ?!馬鹿な事...」
そう、別に虚勢を張っても意味はない。頭がいいだけに、冷静に考えてしまって淡々と鏡にいる自分が、こうだ、という結論を突き付けてくる。
自分に嘘はつけないし、死神君にも通じない。
「そうよ、余計な記憶を、感覚を与えるあんた何て、死ねばいいのに」
「残念ながら死神だからなぁ~、クヒヒヒ。だが、余計かな?洞窟の話を覚えているか?」
「プラトンの洞窟でしょ?覚えている。正直言って、頭では理解しているつもり。
恋というのは経験していないから、という観点で洞窟の外に出るのが怖い、或いはあんなにも見せられて、逆に似非だと思ってしまっている可能性も」
「優秀な自己分析、結構結構。優秀な脳が一週回って見えるもんが見えなくなっている。そんな君は、もう立派な恋する乙女だと思うぜ?」
恋する乙女?私が?
今にでも全部殴り捨てて逃げ出したい、あの病院生活に戻りたい、私が?
「言っておくが、退屈だから死にたいと逃げたいから死にたいは同じ結末でも至る思考はちがうからな」
「別に、死にたいなんて」
「要は同じ事だろ?犬の様に野垂れ死ぬのも、猫の様にひっそり死ぬのも、同じ死だ。そして君の死は、今は‘逃げ’になった」
こいつから、世界から、逃げたい私は?
「私は...」
「まあ、当ててやろう。俺、ひいては世界から、逃げたい。違わないだろう?クハハ」
睨み返しても飄々とした態度は変わらない。ただ、どうしようもない涙が流れてくる。
観覧車の頂点に来た。太陽も数分もたたないうちに沈み切る。
死神君がふてぶてしくも横に座り、死神君の癖に優しく肩を抱いてくれる。思春期男子の様に手を浮かせるのでも、エロ同人みたく腰に回して強引、というわけでもなく。
ただ静かに、私がわんわん泣いているのにこいつはただ優しく、肩を抱いてくれる。
太陽が沈んでも、その手は暖かかった。どうしようもなく好きなこの彩る世界は夜でも暖かい。
暗い洞窟で灯がさすような温かさだ。
好きだ。
どうしようもなく、好きだ。
********
死神編はもうすぐ終着点です。一、二話で多分終わります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます