全ての初めて

始業のチャイムが鳴った。ざわついていたクラスメイト達が椅子を引いて座る音がする。


ドア越しでも聞こえる音、それは今まで知りえなかった学校の音。私が今まで経験できなかった事。


先ほど職員室で田中先生とお話ししたときもドキドキしていたけど、今に比べれば心音は遥かに大人しかった。心臓はバクバクして体全体が震えている気がし、耳から氾濫した川の様な音がする。


深呼吸


落ち着く


病室の窓を開けた時に聞こえる小鳥のさえずり、風が木の葉を揺らす音、夏に聞こえるセミの鳴き声。それらは私を落ち着かせてくれる音。


そうでないと、頭がパンクしちゃうから。



死神さんは本当に奇妙な事をしてくれた。稀代の軌跡と言われるほど視力は回復し、病院暮らしでなくても普通に生きられるようになった。


そう、普通に。


普通に学校に通い、普通に家で寝起きをし、普通に友達を作る。そして、普通に恋に落ちる。


死神さんは私にそういう経験を積んでほしいみたい。死ぬのを恐れなさ過ぎているから、ただ死ぬのを待っているだけなら、と。


余計な事をしてくれたとは思わない。何故かというと、見えるという有難い事が出来るから。



廊下は無機質な色、それでも廊下と窓と灯りと見るもの全てが光を反射している。


教室の前に立つ。先生の一声でざわめきが静かになり、また先生が編入生について話したことによりまたざわめく。


呼ばれたから教室の扉を開ける。少しだけ距離を誤って手をぶつけてしまった、でももう記憶して修正した。


教室の中に入れば、怒涛の勢いで全ての感覚に情報が入る。


香料の匂い、シャンプーやコロン、香水などの匂い。聞こえるのはざわめき、隣の生徒や友達にひそひそと私の事を話すクラスメイト。


見えるのは目、見た事のない、期待に満ちた目。物珍しさに満ちた目。


死神さん、私にこの中から恋を探してほしいのね?



「は~い、では次の編入生を紹介するわよ~」


...


「「「え?」」」

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