死神さんを見ない少女

初歩的ですよ?

ふと、目が覚めた。


静かね。


部屋はいつもの消毒液臭と医療機器の安定したうなりが聞こえる。窓の傍にある私のベッドは暖かいわけでもなく、カーテンも看護婦さんが閉めたみたいだから夜だと思う。


耳を澄ませば遅番をしている筈の看護婦さん達の話声も聞こえない。他の病室からは話し声ではなく、いびきとか寝言が聞こえる。


多分、深夜でしょう。



珍しく目が覚めてしまった。


いつもなら何もない暗闇に沈んで朝の暖かさを感じるまで意識が遠のくのに、今日は何故か深夜に目が覚めてしまった。


胸騒ぎがするわけでもなく、ただただ意識が戻っただけ。



少し寒かったので、お手洗いに行かなければならなくなった。


今朝看護婦さんが連れて行ってくれたし、何度も同じお手洗いに行けば手探りでも一人でたどり着ける。


スリッパは足を上げればぺたぺたとかかとに、地面に降ろせばトンっと音がする。その音が反響して聞こえるほど、夜の廊下は静か。


お手洗いで用を足し、手探りで手を綺麗に洗ってから部屋への道を再びなぞる。


お手洗いから出るまで三歩、そして右に曲がる。


壁に手を添えてまっすぐに歩く。突き当りに来たら壁に当たるまで真っすぐに、そしたら左に向きを変えてまた壁に手を添える。


私の鼻と同じ高さにある、部屋の札を探す。


あった、私の部屋。201号室。



これが私の‘普通’、私の日常。


目が見えない、私の日常。



けれど、今夜、少しだけその日常がぶれた。


今夜、私を起こした違和感。聞こえない、匂いがない、振動がない。


それでもわかっている、あなたがそこにいるのは。


「おや、起きていたのかね。これは少し予想外だ」


「残念ながら、見えない代わりに得られるの物はあるから」


「ほう、しかしそれでも近く出来る筈はないのだが...どうしてわかった」


「ふふ、初歩的ですよ、死神さん」

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