第161話 資料室

 冒険者ギルドの資料室


 二階の資料室に入ると、受付に人がいたので冒険者タグを見せて入場した。


「どういった資料をお探しですか」

「近隣のダンジョンとドロップ品がわかる本と空間魔法に関する魔導書を探している」


「本をお持ちしますので、お好きな席におかけになってお待ちください」

「わかった」


 白髪交じりの中年女性に促され、窓際の席に着いて待った。しばらくすると数冊の本を抱えて席へ持ってきてくれた。


 ダンジョンに関する本は、先日、ニルスたちから聞いていた情報通りの内容だった。

 魔獣の種別・レベル情報とドロップ品一覧をワールドマップに脳内で書き込んでいく。目ぼしいところだと、魔法収納袋、魔法テント等の魔道具や一般の魔導書、スキルブックもドロップするようだ。


 空間魔法関連の本は、自分が持っていない数種類の本だった。

 空間魔法の概念、内容、手法、スペルが順に紹介され、空間拡張の基礎から環境設定と状態固定、魔力との関係についてまとめてある。これなら将来、空間拡張も物になりそうだ。

 

 転移についてはやはり魔法陣で紹介する項目と、次元切断によって空間の一部を切り取りABの空間を繋ぐ概念。次元歪曲によって物理的距離を短くする概念等が紹介されていた。


 これには驚いた。こういった法則性のあるモノを誰が執筆したのだろう。

 表表紙と裏表紙を見たが著者がいない。ダンジョン産の本なのだろうか。残念ながら魔導書ではなく説明資料だったため関連魔法のスペルを見つけることはできなかった。


 魔法はかつて手元から発動していたが、スキルレベルがⅣになってから任意の位置から発動ができるようなった。逆の発想でいえば魔法の現象をその任意の位置を起点にできるなら、自身の体を任意の起点にして現象を起こせるような気がするのだが。その現象を起こすためのスペルは、自分で創造しても同様に現象が起こりうるのだろうか。



 そんな夢想に耽っていると時間があっという間に過ぎてしまった。


「そろそろ閉館の時間です」

「ああ、もうそんな時間か」


 本を用意してくれた中年女性に声をかけ席を立った。


「本はそのまま置いて出ていただいて結構です」

「わかった。世話になった」


 資料室から階下へ降りると人が溢れかえっていた。夕方の依頼報告ラッシュの時間帯か。押し寄せるヒトを避け外に出ると、太陽が西の空に大きく傾いていた。さて宿に帰ったらグテグテだった昇格の祝いでもするか。


 宿の部屋に戻るとアイリーとファリナは戻っていた。部屋にはバーラとベティもいた。色々と女性の必須アイテムを買い揃えたようだ。細かく聞きだすほど野暮ではない。昇格祝いの話は、アイリーとファリナがバーラたちにも声をかけていたようで、この後ニルスとテオも合流すると云う。


 自分は午後からのダンジョンと空間魔法の本のことを簡単に説明した。バーラたちの希望があれば、ダンジョンに同行することもやぶさかでないと云う話をしたところ、バーラとベティも目を輝かせていた。彼ら四人のパーティの名は『南の森の妖精』というらしい。


 階下に降りるとニルスとテオが来ていた。二日続けての食事会だ。

 この宿は冒険者向けの高級宿泊所だと云うが一階に食堂を併設している。そこそこのランクの冒険者たちは、ギルドの食堂ではなく、ここで食事をとることが多いのだと云う。まあ味は一流だったのでわかる気もするが。

 時間が込み合う時間に差し掛かったようだ。六人掛けのテーブルに七人が詰めて座ることになった。


 ――昨日は御馳走になったので今日は私たちが出しますね。

 ――お祝いですからねー


「ここは安い店じゃないぞ」


 ――今日の模擬戦で賭け金が8倍になったのでウハウハなんですよ

 ――銀貨16枚!儲けさせてもらいましたー


 どうやら昇格の模擬戦は賭け試合になっていたようだ。オッズレートが1:8だったと云う。逆張りしていたのがこの四人だけだったと云う。


「昇格試験の通過はそんなに過酷なのか?」


 ――試験官によりますね。サブマスターの時はだいたい不合格になります。


 試験の体裁すら不十分だったことを考えれば、ありえるのか。一体何のための試験なのだろうな。怪我でもさせて教会の治癒代金でも高金利で貸し付けしているのだろうか。A級の『ヴァイエルの宝石』だったか奴らが教会送りになったから、教会も仕事を失うわけではないだろうが。


 結局のところウェルカム・イベントの無意味さに苦笑いしかでない。


「普段はどこを狩り場にしているの?」


 ――最近はアルミラージと草原ウサギ

 ――西門を出た北の森の手前ですね

 ――毎日一羽狩れれば、困らないからね

 ――体づくりには必要だもん、肉が。


「確かに二人とも痩せていて、妖精みたいね」


 ――半年前はもっと酷かったのよ

 ――ガリガリだったよね

 ――ゴブリンに追いかけられていた時か

 ――そうそう、ふらふらとして妖精みたいだった


 あー、アイリーに肉を喰わせていなかった頃を思い出した。ガリガリだったからな。確かレベル10になってEランクに上がったばかりの頃だったか。



 

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