第160話 昇格試験

「1対4だって?舐めてんのか?」


「え?本当にAランク?」

「相手の強さが分からないの?そっちの方が驚きなんだけど」


 髭面筋肉マンの挑発に、アイリーが呆れたように答えた。相手の力量が測れない死ぬタイプの冒険者だと云わざるを得ない。


「審判、始めろ」

「まて、武器はギルドで用意したあちらの木剣を持て。不正防止のためだ」


 なるほど。手に取った木刀は折れ掛け。不正防止といいつつ一体どうしたいんだ。素手でも魔法は打てるからいいのだが。


「ベルン、これ『不壊』をかけていい?」

「いいけど、魔法に木剣いる?」


「審判の人、魔法はアリなの?」

 ――殺傷力が高くなければありだ


「え?殺傷力の無い魔法なんて意味なくない?」

 ――人質救出の作戦とかもあるだろう、加減が出来なくてどうする


「この試験は公正なのか?」

 ――どういう意味だ


「折れそうな剣に攻撃魔法禁止とか、悪意以外のなんなの」

 ――つべこべ言わずに準備しろ!


 ――おいさっさとやれよ!

 ――まだかー

 ――怖気づいたんじゃないのか

 ――とんだお嬢さんだ


 観客席からもヤジが飛んでくる。ははん。謎の敵対勢力ってやつか。


『不壊』をかけて、二本ずつアイリーとファリナに渡し作戦を伝えた。観客席にアイリスを見るとオロオロとしている。彼女は事情を知らないようだ。中年髭面とAランク冒険者の余興か。あとは観客席でニヤついている冒険者たち。とんだアウェーの洗礼だ。


「遠慮はいらなさそうね」


「ああ、昇格もいらんけどな」

「そうね、けれど言われぱなしってのは、違うんじゃない?」


「両手首、両足首でも圧し折るか」

「真剣を抜いたら、殲滅開始ね」


 ――はじめ!


「やれ!」

 ――ファイア・ボール


【火炎】

【ウオータ・ウオール】


 ――おい、なんだあれ

 ――ファイア・ボールが炎に飲まれたぞ

 ――半分が水浸しじゃないか

 ――A級の四人はどこだ


 四人がずぶ濡れになった。さぞかし濡れた服は重いだろう。


 ――おのれ!舐めやがって


「それは格下に使う言葉よ、知らないの?」

「だって頭まで筋肉だもの」


 正論だが、相手は激おこだ。剣を抜いて走ってきた。しかも頭上に構えて大振りだ。本当にA級の試験官だとは思えないな。


「真剣を抜いてもいいのか?審判」


 どうやら聞こえないふりをしたようだ。もう茶番はいいだろう。話の通じない相手がこの世界には半分いると女神様には聞かされていたが、よもや賊以外にもいたとは。


【マジック・シールド】


 ガン!


 大きく振りかぶった筋肉マンの顔面に透明のシールドがぶつかった。その拍子にバランスを崩して剣を手放した。宙を舞うその剣に木剣を振り抜く。


 ガキン!


 木剣で真っ二つにへし折った。斬れた刃先が審判の太ももに刺さる。ストライク!


 ガキン!


 さらに柄の部分を打ち抜くと、冒険者の太ももに刺さった。さすがA級。我慢強い。声も出さない。


「制圧開始!」


 掛け声と同時に、一気に距離を詰めファリナが神官服の女冒険者の両手を砕き、アイリーが魔法使いの両ひざをローキックで打ち抜いた。


 ボキ!

 ――ぎゃあ! 


 俺は手前の筋肉マンのナイフを構えた側の手首に木剣を振り、反対側の手で頭を防ごうとした手首ごと振り抜いた。


 ボキ!


 喉を木剣で突いたあと安全靴で両方の膝を踏み抜く。さてあとは紳士の髭面野郎だが、逃げ出してしまった。とりあえず木剣を投げたら背中に刺さったがそのまま逃走した。


 あらら。まあ、三人だけでもボコしておけばいいか。魔法使いと僧侶の二人の顔面をパンチしたら気を失った。そんなんじゃオークに犯されるぞ。


「終了の合図が無いのであとは燃やせばいいのか」

「言い残すことはある?」


 言葉もなくただ睨みつけてきたので、会話をする気もないようだ。筋肉マンの上に女冒険者二人を投げて重ねた。


【ファイア・ウオール】


 三人の周りに炎の障壁。中は熱いけれどそれだけだ。せいぜい濡れた服がニヤケタ面が乾くだろう。ただの防御魔法だからな。


「おい、審判いつまで続けるんだ。お前も丸焼きにするぞ」


 ――ひい、来るな!


 なんだそれ。 


「終了の合図はしなくていいのか、お仲間は見殺しか?」


 ――なんなんだ、お前らは!


「それはこっちのセリフなんだが」


 ――なんだ、あいつら

 ――頭おかしいんじゃないか

 ――やり過ぎだろう


 ――防御魔法だけでか?

 ――木剣しか使ってないぞ

 ――ワンパンじゃねえか


「おい、野次馬ども!暇なら降りて稽古をつけてくれよ」


 ――ふざけんな

 ――俺たちはタダの客だ

 ――1ヤジ1銀貨だからな


 なんだそれ。


「アイリス、どうしたらいい?」

「窓口にお越しください」


 訓練場を後にして窓口に戻った。


「アイリー、あれはどうする?」

「服が乾いたら消える」


 死人が出ないならほっといてもいいか。


「昇格の件ですが、希望するランクはありますか?」

「ない、貴族の面倒くさい指名依頼を避けられるならなんでもいい」


「はあ、そうですか、ではBランクにしておきますよ」

「ああ、それで頼む」


 首にかけていた冒険者タグを渡した。見た目何が変わったかよくわからないがCからBにランクアップした。


「骨折を治せる治癒士は手配しているんだろう?」

「ええ、ギルド専属でいますよ、ご心配なく」


 アイリスからあとのことはギルド内で片づけておくと云われたので退散することにした。

 アイリーとファリナは予定通りバーラたちと買い物に出かけた。俺は資料室の利用方法をアイリスから聞いて二階に上がった。


 目当てのものが見つかるといいが。

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