第162話 西門の外の湿地帯
翌日
ニルスたち『南の森の妖精』の四人とパーティを組み、西門から出た北側の草原に向かった。王都ヴァイエルは平地よりも少しだけ小高い丘の上にあり、西門を抜けると緩やかに道なりに下っている。眼下を見下ろすと南から北へ蛇行しながら流れている川が見える。北が下流域のようだがこの季節は雨量が少ないのだろう。
水量のかなり少なくなった大河が王都ヴァイエルの西側を南北に流れていて、それを横目に石造りの橋を越えた。川を渡ると今度は針路を北に取り、一面に広がる草原を川沿いに北上した。同じ方面に向かう冒険者パーティが何組かいた。
正面の北側には蛇行した川の下流域、そしてその奥には高さ300メートル程度の小高い山の尾根が左右に幾つも伸びていた。左手の西側は奥に行けば森林地帯だと思われる緑色と深い空色の混じった景色が続いていた。
――あの森の入り口あたりの草原地帯が普段の狩場ですね
――道を外れると足元が緩いです
「湿地帯なのか?」
――雨季になると川の西側が氾濫します
――この辺り一面湖みたいになりますね
――水が引くと魔獣が森から出てくるよ
――川は越えてこないのよね
川の東西を見ると、高低差は西側の堤防が明らかに低いのがわかる。東側は整備されているが、西側は天然の土手だ。敢えてそうしているのかもしれない。
「この西側の湿地に魔獣は居るのか?」
「スライムやフロッグ系、ミニ・リザード系がいますね」
「それなら、ここから森まで道を切り開いて倒していこう。経験値になるだろう?」
「ええ?この沼地を?膝まで浸かりますよ」
「あはは、道を作るんだ。浸かりはしない」
アイリーとファリナに声をかけ、方角を示した。
【穴掘】
巾三メートル、深さ30cmで前方まで一気に掘った。
――うお、すげえ
――なんじゃこりゃ
――両端からスライムが出てきた
――レベルが上がったんだけど
――マジで?本当だ
――オレも上がってる
【火炎】
【
「どうだ。足をとられるか?」
「おおー歩ける!」
「じゃあ俺たちが道を作るから、道に出てきた魔獣を倒してくれ」
「りょーかい」
「森に着くまでに、レベルが10くらい上がるだろう」
「いやいやいや、さすがにスライムと草原トカゲでそこまでは上がらないのでは?」
「まあどっちでもいいが、お前らレベルアップ酔いは大丈夫か?」
「え?なんです、それ」
ファリナがレベルアップ酔いについて四人に説明している。どうやら彼らは急激なレベルアップ酔いを経験したことがないようだ。ファリナは最初の遠征でいきなりレベルアップ酔いを起こした時が、今の彼らと同じくらいのレベルの時だった。
「お前ら四人は相棒じゃないのか?」
「パーティは組んでいるけど、まだ、そんな関係では、ごにょごにょ」
え?それは不味くないか?戦闘どころではなくなるぞ。パーティを組んでいるから取得経験値10倍になっているはずだし。
「仲間割れにならないように、事前に相棒を組んでおけば?」
「大丈夫っすよー」
ニルスとテオは恥ずかしそうに遠慮している。
「お前ら、マジでもっと恥ずかしい目にあうぞ?」
「え?マジですか?」
「まともに立てなくなるわよ」
呆れてファリナも忠告している。まあ、体験しないと分からないものかな。あの衝動は。
【穴掘】
――うわーーー!
――ぐふっ!
――きゃあ!
――ああん!
次の瞬間、ニルスとテオが四つん這いになった。バーラとベティもへなへなとその場に尻をついた。
【
「ほら、早く対応しないと、スライムに恥ずかしいところに吸いつかれるぞ」
「ちょ!」
「マジかこれ、きっつ」
「まってまって、これ無理」
「あーん」
「ほら、先に行っているから相棒を決めておけよ」
【火炎】
【
「これ、森の往復だけでレベルが20上がるんじゃない?」
「まったくね、二往復する?」
女性は知らんが、男は枯れ果てて死ねるぞ、それ。
「酸耐性と毒耐性が身に着けられるんじゃない?」
「とんだスパルタね、ファリナも」
後ろを振り返ると遥か遠くで抱き合う四人が見えた。どうやらそれぞれ相棒が決まったらしい。
「今夜は相棒記念パーティだな」
「ジワジワ上がるより、一気に上げてあげれば?」
それもそうか。一気に走るか。
【穴掘】
【火炎】
【
――ぎゃあ!
――くわーー!
――もうーー
――やめてーー!
遠くから三度目の叫び声が聴こえる。レベルが9も上がれば、スライムや草原トカゲに殺されることはないだろう。俺たちは遠慮なく進んだ。
【穴掘】
【火炎】
【
結局、川岸から森の入口までは4キロほどだった。8回の穴掘りで辿り着いたので、森の入口で彼ら『南の森の妖精』の到着を待った。
「精のつく料理と飲み物を作って待ってあげようか」
「そうだな、料理は頼む。俺は飲み物を作る」
――草原タートルのスッポン鍋でいいかしら。
――ミニ・リザードの睾丸もいいらしいわよ
何処情報だよ。初めて聞いたわ。
「ベルン、お風呂も作ってあげたら?」
「あー、確かにそうだな」
森の入口に穴掘りスキルで三方に壁と穴を作り、土を『不壊』で固め、ファリナが水を注いでくれた。六人は入れるサイズの泡風呂が出来た。
アイリーは四人用の下着と肌着を準備してくれたようだ。
四人が敗残兵のようにヨタヨタとたどり着いたのは其れから15分後だった。
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