第158話 昇格試験の前日

「おい、アンタら待ちな」


 おや?この国に知り合いはいないはずだが。


 後方、つまりカウンターの中から声をかけてきたのは立派な顎髭の中年男性だった。


「要件は終わったと思ったのだが、ああ、パーティ登録がまだだった。頼む」

「ああ?登録とは別の話だ。明日昇格試験を行う。午後からギルドの訓練場に来てくれ」


「昇格試験?特に希望はしていないのだが」

「馬鹿いえ、オーガを倒せる冒険者をC級のままにしておくわけがないだろう」


「ランクが上がるといいことがあるのか?」

「ランクに見合わない冒険者をそのままにしておくことに不都合があるのだ」


 そう来たか。


「午後のいつぐらいだ」

「鐘の音が三つなる頃までに来てくれ」


 三つって、何時だよ。

 思わず声をだして突っ込みそうになった。これは宿屋の誰かにでも尋ねればいいか。


「武器は、これでいいか?」


 俺たちが腰にぶら下げている木剣を指さして尋ねた。


「ああ、それでいい。殺し合いをするわけではない。それに本職は魔法使いだろうが」


 そうだっけ? 

 木の杖でもぶら下げておけばよかったな。


 とりあえず明日出向くことを伝えてギルドを後にした。外に出ると馬番をしっかり勤めてくれた男女四人の新人冒険者に声をかけた。


「飯がまだなら、奢るぞ。来るか」


 四人が顔を見合わせて頷いている。


「ごちになります」

「宿屋のフェアリーの祝福というところは、食事もできるか?」


「出来ますが、高級宿ですよ」

「ああ、気にするな、明日からしっかり稼ぐさ。俺はベルン、こっちはアイリーとファリナ」


 二人も若い四人に言葉をかけた。


『せっかくだから、この四人から王都の情報を聞き出そう』

『了解』

『わかった、任せて』


 アイリーとファリナに念話を送った。


「先に宿をとって来るわ。宿は四人部屋。食事は7人分でいいわね」

「ああ、頼むよ」


 アイリーとファリナが、先に馬に乗って宿屋へ向かった。500m先というのですぐに追いつくだろう。後ろ姿を見送ってから四人に声をかけた。


「冒険者は長くやっているのかい?」

「四か月目くらいかな」


「じゃあ王都では先輩だ。教えて欲しいのだが、鐘が三つの時間とはいつくらいだ?」

「もうそろそろ鳴る頃かな、太陽が真上に来たくらいの時間」


 上を見上げた。だいたい昼の1時か2時くらいか。南側じゃなくて真上に来るんだな。


「明日Bランクの昇格試験なんだけど、どんな試験か知っているかい?」


「さあ、だいたいは二つ上の階級と模擬戦が多いって聞いているけど、詳しくは知らないかな」

「私も知らないわ」

「魔石の納品で決まるんじゃなかったっけ」

「その話も聞いたことがある」


 なるほど、ランク別の魔石を納品して模擬戦ね。ただのレベルだけで決まるわけじゃないんだな。しっかりしているなこの国は。ロルヴァケル王国はレベルだけで上がっていたけど。


「Cランクなの?」

「ああ、登録しに来たらCだと云われて、明日はいきなり昇格試験だとよ」


「すげえな。レベルどれくらい?」

「130くらいだっけ?」


「うっそ」

「マジで」

「三桁とかあるのか!」

「すっごーい」


「ダンジョンに行ったらすぐだぞ?みんなはどれくらい?」


「俺は18、みんなEランクだよ」

「私は16」

「17」

「16だ」


 新人の割には高いな。一桁かと思っていた。


「近くにダンジョンはある?王都は初めてなんだよ」


「西側にあるゴブリンダンジョンが近いかな、でもレベル10になったら行く初心者用」

「あとは、オークダンジョン、レベル30くらいになったら行きたい」

「他にあったっけ、塔型ってレベル50から?」

「そうそう。あとは墓地ダンジョン。他にも王都の西と北にダンジョンがたくさんあるよ」


「へえ」


 墓地ダンジョンって。アンデッドばかり出るダンジョンだろうか。あっという間に宿屋についた。


 部屋も食事の予約も取れたそうだ。四人が恐縮しながら宿屋の入口を潜った。先ほどの会話は二人には念話で伝えて情報を共有した。


「じゃあ、改めて乾杯!」


 男女の名前を教えてもらった。四人は15歳だという。少年がニルスとテオ。王都の南の村の出身。少女がバーラとベディと呼んでと云った。彼女たちは王都の出身。最近パーティを組んだと云う。ひょっとしたら下級貴族の家名付きかもしれないが、その話題には触れなかった。少年たちは平民らしいが、少女たちは振る舞いが上品な感じだ。


 俺とアイリーは17歳。ファリナは16歳だ。三人とも東の果ての村出身で、レベルは三人とも130だと告げた。

 四人ともキラキラした目でこれまでの冒険を聞きたがったので、アイリーが要約して伝えてくれた。強盗団の穴落しの話は端折っていたけれど。


 ――へえ~スライムダンジョンなんてのがあるんだね

 ――面白そうー

 ――あたり一面スライムの海って怖くない?

 ――マジでヤバイって。想像しただけで足が竦む


 ――氾濫がヤバイよ

 ――オーガとか無理無理

 ――オークの方がアタシは嫌よ

 ――それわかるー


 ニルスとテオからは主にこの辺りの狩場やダンジョン情報。バーラとベディからはこの街の美味しい店や流行りの服の話を教えてもらった。

 もちろん本命はこの国の西側の話だが、今日のところは初対面なので王都が初めての体裁で世間話的な会話を心掛けた。


 あとは。アイリーとファリナがお揃いのリュックをしていたのをバーラとベティが目ざとく見つけ欲しがっていたので在庫から四つ取り出して渡した。

 一角ウサギの皮に草原トカゲのベルト。そしてスライムの魔石をアクセサリとしてつけている奴だ。ニルスとテオには青スライム。バーラとベティには赤スライムのアクセのタイプを渡し、彼らは喜んで受け取った。


 売値は金貨1枚だけど。実質、原価は銀貨1枚程度だ。情報料としてはちょうどいい。


 時間停止も重量軽減もない1立方メートルの収納袋を中につけているので見た目以上には入るだろう。ただし、所詮は1立方メートルなので魔石と素材はソコソコ入るけれど、肉を沢山入れたりすることは難しい。満杯に入れると重くて持ち上がらないし。


 今日の別れ際にそれを伝えたところ、ぎょっとした顔を四人がしていた。


「空間拡張の事は世間には内緒よ」


 アイリーが悪戯っぽく笑っていた。




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