王都 ヴァイエル

第156話 ガスマン王国 王都 ヴァイエル

 ヒト気のない村。ヒトの住んでいる村。そのどちらも素通りをして西を目指した。イストエンドルも野盗の街も、そして通り過ぎるこの辺りの村も見た目は似たような背格好だった。

やや褐色の肌に茶色い髪と顎髭。麻素材をそのまま使ったような色の巻頭着に濃い色のダボっとしたズボン。裾をひもで結んでいる。

この国のトレンドなのだろう。口ひげを長めに蓄えて居る者は見かけないが、顎髭ばかりでむさ苦しい。そんな姿を見て自分の顎に手を当てると伸び放題の髭だ。


「どう思う?」

「地域に溶け込んだ感じはするけど微妙ね」


微妙か。微妙だな。


手元に鏡が或るわけではないので大体の想像で自分の面を思い浮かべる。


「城壁が見えてきたわ」

「高いな、ロルヴァケル王国第五城壁の二倍はあるな」


エルフの村を焼き払ったり、海賊村に攻め込んだりする軍事力を持った国。周りに敵も多いのだろう。こんな世界でヒト族至上主義を掲げている時点で何かに振り切っているのは理解するが果たしてそこに住む村人の気質はどうなんだろうな。


城壁の東側には城門がない。碌なサイズの町や村が無かったことを考えると妥当か。城壁の手前の道なりに南側の城門に向かった。疎らだが歩く人、馬車を見かけるようになった。城門の外には小麦畑が広がっていることを考えるとこちら側には魔獣の脅威は無いのだろう。森以外で見かけることはなかった。


30人ほど並んでいる列の後方へ馬を降りて順番を待つ。

見たところ護衛数人を従えた商人が多いのか、南の森から戻ってきたと思われる冒険者風の男女もいる。それぞれの顔は街に戻ってきた安堵感が漂っている。


門兵は四人。身分証を確認し、荷物を改め懐に何かを忍ばせて先に進めている。


「何かを渡さないと入れないのか」

「そんな感じにも見えるわね」


「ダンジョン硬貨でも渡すか?」

「金額が大きすぎるわよ、金貨10枚分の価値がある」


それは逆に悪目立ちするな。さてどうしよう。いっそ、異国土産のオーク肉かオーガの遺品でも渡すか。


「ロルヴァケル王国の銀貨でいいんじゃない?」

「使えないけどいいのか?」


「こういうのは雰囲気よ、たぶん。硬貨袋に入れて渡せば重さで通してくれるわよ」

「なるほど」


「ダメならレベル20くらいの魔石を渡せばいいわ」

「そうしよう」


 さて心配を他所にあっさりと王都の城門を潜った。どうやらアイリーとファリナに釘付けで胸元に差し出された硬貨袋の中身を確かめることもなく懐に入れていた。門番も儲かるんだな。


 まずは冒険者ギルドで登録だ。


第三城壁までは騎乗できるようなので再びメリッサとチャーリーに乗り、パカパカゆっくりと歩を進めた。第五城壁内は平民住居区域のようだ。すぐに第四城壁があり、そこに門はなく、商業区域のようだ。おそらくギルドもこの区域にあるだろう。時計回りに移動をした。

商業区域は、ロルヴァケル王国の第三城壁内とさほど変わらない大きさだ。


「どちらの国が大きいのだ?」

「ロルヴァケルはこの国から独立した側だから、ガスマン王国の方が1.5倍ほどの大きさかしら。昔の資料なので今はわからないわ」


 第五城壁から入った場所には、食料や生活用品を売る店が多かったが街の中を進むと、鍛冶屋や魔道具店、錬金の看板に防具屋、武器屋といった店が並んでいた。そろそろか、と思っていたら、見慣れた剣と防具の看板。冒険者ギルドを見つけた。


 商人が御者台に座った荷馬車はよく見かけるが馬に騎乗した者はいない。そのためかジロジロと街中での視線を感じたが今更どうしようもない。


 冒険者ギルドの前にも若い新人らしき冒険者たちがいたので、魔石一つで馬を見てもらえるかと頼んで差し出したところ、引き受けてくれたのでレベルFランク上位の魔石を人数分4つ渡した。一つ2000G程度の魔石なので彼らにとっては良い稼ぎになるだろう。


 ギルドの中に入ると、思った以上に広い大きさだったが、作りはロルヴァケル王国のギルドとよく似ていた。カウンターが前面にあり。右側に掲示板、右奥に階段、左奥に食事処があった。


 さて新人の登録の窓口はどこかと探したところ、中央やや右の位置にあった。昼前の時間帯のため、込み合っているわけではないが依頼掲示板の前と依頼受付の窓口。達成報告の窓口にはそこそこ人が並んでいた。


「王都南西支部の冒険者ギルドへようこそ。此方は新規登録の窓口です」

「ああ、三人の登録を頼む。あと素材を50万G分程度、売りたい」


え?という顔をされたので、素材は別の窓口かと尋ねたところ、売却素材によって登録後ランク付けをするので、何の素材を売却するかを尋ねられた。


「B級かC級の魔石でいいんじゃない?」

「オーガと、オークナイトの魔石?」


魔法収納袋入りの背負い袋から、魔石を二つ取り出した。


「これだと幾らくらい?50万Gになるように出すけれど」

「このサイズですと、こちらのC級魔石が5万G、こちらのB級魔石が20万Gです。どちらの場所で討伐した魔石ですか?」


「ああ、これは去年、村に来たオークナイトとオーガの魔石だ。東の最果ての村の更に向こうの田舎だから地図にはない村だ」


いかにも胡散臭そうに俺を見る受付嬢。俺の顔と魔石を視線が行き来した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る