第149話 旅の二日目
旅の二日目
鬱蒼とした森を抜けると、一面が赤茶けた荒野だった。砂漠と云うほどの広大さはないけれど、岩も石も赤茶けている。土を掬ってみるとサラサラとした土ではなく、小石を敷き詰めたような感じだ。足場が不安定で歩きにくいな。
【遠見】スキルで見る限りヒトの姿も魔獣らしき気配もない。相変わらず南の森から北へ吹き降ろす風のせいで、北の潮の香りはしない。4~5キロ北に向かえば海だと地図記憶が表示していたが、海に用が或るわけではないのでこのまま西に向かおう。
「荷馬車をつける?」
「視界は悪くない。そうしようか」
メリッサとチャーリーに軽くヒールをかけて御者台側を馬に繋いだ。
「ゆっくりでいいぞ、メリッサ」
ぶるんと尻尾を左右に振る。馬らしくないな。
昨夜の遅くまでのプレイのせいでファリナは馬車の中のソファに横たえ休息をとると云う。御者台にアイリーと座って西進を続けた。
「一週間から10日くらいはこんな景色が続くかもな」
「そうね、サヴァイア
「廃墟になっているんじゃないのか?それに、用もないし、言葉も通じないぞ。その向こう側の海賊村なら覗いてみてもいいかもしれないが」
「碌な目に合わなさそうだけど」
「まったくだ。まともな人族ってのが、本当に少ないな。女神様のお言葉通りだ」
「私たちのほうが異物でしょうに。しかも厄災級の」
そういってアイリーが笑った。違いない、とつられて俺も苦笑いだ。
「ねえ、あちらの世界の戻れるとしたら、戻りたいと思う?」
「いや、まったく。こっちでアイリーとファリナと暮らす方が俺は性に合っているかな。戻りたいのか?」
「ううん、それはないかな、あの子たちは戻りたそうだったからね」
「学生の姉弟?ルクスとシドニーだっけ」
「うん、そう」
そもそも肉体が残っていないし、国すら残っていないかもしれない。まあ、彼らが戻って魔法でミサイルを撃ち落とせばヒトカドの英雄には成れそうだが。
「ベルンはやってみたいことはある?」
「俺は、空を飛ぶか、転移魔法を覚えたいな」
「いいわね、男の子っぽくて」
「なんだ、その言い草は(笑)、アイリーはあるのか?」
「そうね、私も空を飛びたいわ、レベル3000のドラゴンにのって」
「勘弁してくれ、ドラゴンは無理だ」
「空を飛ぶ魔獣を女神の短剣で刺せば、飛べるようになるかしら」
「ワンチャンあるかもな、試してみるか」
「そうね、あとは犬と牛と鶏を飼いたいわ、東の草原に牧場をつくってよ」
「湿原の草が牛の食用になるのならいいが、そもそも牛はミノタウルス系の二本足しかいないぞ、あれを飼うのか?しかも肉食だろう」
想像した。ナシだな。
「イメージよ、牧畜は。二本足は飼育できないわ。馬がいるのに不思議ね」
「まったくだ。犬もいないからな。アルミラージくらいしか四本足のデカい奴は知り合いがいないぞ」
大ネズミもいたな。
「転移の魔法やスキルってどの魔獣が持っているのかな」
「さあ?ダンジョン産の魔道具とか?」
「ダンジョン産か~、湿地ダンジョンとスライムダンジョンしかいってないからな」
「収納袋は出たんでしょう?転移系のスクロールはなかったの?」
その二つのダンジョンには無かったんだよな。他のダンジョンだとあるのかな。塔型とか。ガスマン王国の冒険者ギルドってあっちとは互換性がないけれど、行ってみるか。ロルヴァケル王国の冒険者ギルドも拍子抜けするくらい平和だったからな。期待はせずに行ってみよう。
午前中に20キロほど進んだところでファリナが目を覚ました。アイリーと場所を変わると云って御者台に座った。
「どんな話をしていたの?」
「空を飛ぶ魔法や転移の魔法がどこにあるか、という話だよ」
「グリフォンやワイバーンがドロップするか、本体が持っているスキルを奪えば?」
「その魔獣はどこにいる?」
「どうだろう。南のウォリング山脈にはいるけれど方角が違うわよ」
「ガスマン王国の冒険者ギルドに情報があるかな」
「どうだろう、転移魔法とか眉唾ものだし、空を飛ぶ冒険者なんて聞いたことがないわ」
「ははは、だよな、俺もない。ファリナは空を飛びたいと思わないか」
「・・・考えたこともないわ」
そうなのか。世界観の違いかな。飛行機の旅をすると陸路が辛いと感じる感覚的なもの。
「あとは、牧場の話かな、こちらの世界では牧畜とか放牧とかある?」
「軍馬を育てるくらいじゃない?動物を育てるなんて発想がないわよ」
ないのか。養豚場や養鶏場は諦めるか。
「卵って食べない?」
「食べないわよ、そもそも魔獣は卵生じゃないから。ドラゴンと蛙と魚ぐらいじゃないの?」
世知辛いな。思い描く卵の形が違うようだ。
「鶏っていないんだっけ」
「鶏ってどんなの?」
「飛べない鳥」
「あー、似たような飛べない鳥はいくつかいるわ、でも生息域がこの辺じゃないわね」
「そういうのを知るのも旅の楽しみだ」
「そうね、最近は賊しか斬ってない」
確かに。
「ファリナは子どもの頃、どんな大人になりたかったんだ」
「冒険者ね、あとはお母さんのお手伝いかな、旅館の経営。どっちも叶ったけどね。ベルンは何になりたかったの?」
そういわれると、なんだろうな。もっとスポーツ選手でもないし、成金でもなかったな。ぐうたらするのも違うし。覚えてないぞ。
「子どもの頃のことは覚えてないよ、今は転移魔法を覚えたいな」
「ふーん、男の子は魔法使いに憧れるのよね」
お前まで云うのかその言い草。ファリナ。
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