第150話 魔導書
「ファリナ、手綱を変わって貰っていいか」
「いいわよ」
手元の
「ファリナは全部読んだか?」
「ううん、なかなか目を通す時間がなかったから」
そうなんだよな。大量のスキルブックと魔導書がドロップしたので、一冊一冊を吟味したり精読したりしたことがなかった。ひょっこりと転移のスキルや魔法がない物だろうか。
「空間魔法の応用の収納袋はダンジョンでドロップするから、他の空間魔法や時間魔法のスキルがないか調べてみるよ」
「うん、あるといいわね、空飛ぶ魔法が」
クスっと笑ってファリナが手綱を取って代わってくれた。
「ファリナは魔法に興味がないのか?」
「ん~、火と水が使えるから、特に不便はないかな。ベルンとアイリーと知り合わなければ、穴掘のスキルや染色のスキルなんて取ろうと考えたこともなかったと思うの。あとは欲情スキルだっけ」
「あー、誰かの影響は確かにあるかもね」
「うん、あとは生活魔法があれば普段使いに困らないわよ、雷魔法なんて冒険者になるまでイメージすらわかなかったもの」
ああ、サンダー・アローね。
付箋がないので、代わりに小枝を気になるページに挟み込んだ。
重力魔法とか面白そうだ。遠隔自動収納があるくらいだから、人間も自動収納できる図式でもあれば移動系の魔法もつくれそうなんだけどな。
確かにこの世界には学校がないので、物理法則や自然現象に対する理解がないと、スキルブックや魔導書を読んでも、その効果の意味が理解できないかもしれない。重力魔法や雷なんてその典型的なものだ。しかも識字率も極めて低い。野をうろつく賊なんて文字文化すらない。しかしこの魔導書やスキルブックって、著者が書かれていないので一体誰が記しているのだろう。活版印刷もタイプライターもない世界なのに、手書きではなく明らかに統一文字で書かれているのだ。
そうだ。と思い、ファリナにこの魔導書の文字はロルヴァケル王国の文字なのか、他の国の者は読めないのか尋ねてみた。
「それが不思議なところでね、手に取った者が読み取れる文字に変化するらしいわ」
「なんだそれは」
俺には確かに元の世界の文字に見える。自動翻訳機能のおかげかと思っていたのだが、どうやらもっと奥深い仕様のようだ。これには驚いた。本が生きているようだ。
これらのスキルブックにはいくつかの種類やシリーズに分かれている。最初にファリナの兄たちから貰った本は、大全集だった。ダンジョンでドロップしたのは火のシリーズの2巻とか水のシリーズ4巻とかランダムにドロップする。もちろん時には生活魔法全集とか一冊モノもあるのだが。
タイトルから時間魔法や空間魔法のシリーズものを探した。手元にあるものの中に転移についての記述はなかったが、本のナンバリングからいってシリーズもののどれかにはあるのかもしれない。今後もダンジョンには定期的に潜るのがいいかもな。と思ってこの日の検索作業を終えた。
出発前に広場に集められたドロップ品置き場から目当てのものを抽出しておけばよかったと少しだけ悔やんだ。
同時に、初めての日のことを思い出し、手探りで声も出ない自分と目の見えないアイリーの姿に今を重ねた。随分と恵まれている。贅沢な悩みだと一蹴した。
そこから数時間代わり映えのしない景色の中、太陽の傾きだけが変化した。
「この辺りで今日は休もう」
「うん、魔獣もヒトもいないのならお風呂を用意して」
「わかった、先に野営の準備をする」
「うん」
進路を少し南の寄せ森の入口に馬車を止め、馬を御者台から解放した。身軽になったメリッサとチャーリーにファリナがヒールをかける。干し草ベッドを取り出し、餌場をつくった。
浴槽兼ソファを取り出し風呂型にするとファリナが水を張り、火炎で湯を作った。近くに置いた網籠に脱いだ服を投げ込み、ファリナがざぶんと浴槽に入った。
アイリーも服を脱ぎ一緒に浴槽へ飛び込んだようだ。鉄板を取り出し火炎で加熱、小麦を水で溶かしたものに調味料を振りかけ、焼いた肉を乗せ生クリームをぶっかけ鉄ベラで小麦の生地で包む。クレープの肉包みのようなものとそれに合う飲み物を作った。
テーブルと椅子を取り出し適当に並べた。
そこに平積みにした魔導書を読み漁った。【速読】の魔法があったので女神の短剣で取得すると、ページを捲るだけで、必要か不要か理解できるようになった。気になったものは迷わず取得していった。
魔法以外にも、歴史書や地図、魔獣に関すること、言語に関すること、ダンジョンに関することは全て叩き込むように女神の短剣で触れた。
【ワールドマップ】
【古代年史】
【王国100年史】
【王国英雄】
【地方貴族図鑑】
【地形把握】
【方言理解】
【世界のダンジョン】
【魔獣図鑑】
この辺りの旅に役立ちそうなものを覚えていく。また、必要そうなものはアイリーとファリナのも取得してもらった。
そしてふと【魔法陣】の本を開いたところで手を止めた。
【召喚魔法陣】
任意の場所から魔法陣を経由して呼び寄せる。移動距離・召喚可能次元は魔法陣に込めた魔力量に比例する。
【転送魔法陣】
甲乙二つの魔法陣間の移動可能。移動質量・最大容量は魔法陣に予め書き込んでおく。移動距離は魔力に依存しない。
おしいな。転送ではなく好きな場所に転移できるものはないのだろうか。
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