第7話 生存競争というスキル

【生存競争】のスキルを今更ながら調べてみることをアイリーミユに伝えたところ、彼女も今更?と、笑って俺の手を握り締めてくれた。


 彼女の笑顔にカサついた心が癒される。


 ハルトスキル;【生存競争】


 強さの本質を理解し、いかなる環境にも自身を合わせることが出来、結果として、最期まで足掻き生き残った者に与えられるレアスキル。


▼取得経験値3倍。:自分よりレベルの高い他者を倒した時に効果が発揮される。


▼スキル取得率3倍:短剣に依るスキル取得確率が、スキル無しに比べて3倍上昇。


▼パーティ効果:このスキルを持つ者が、信ずるに値すると認めた者に同様の取得経験値3倍、スキル取得率3倍の効果を付与・発揮する。(パッシブ効果:自動判定)


▼ドロップ率上昇


 はい?


「わぉ、あなたといたから3倍の確率でスキルを得られたのね」


 ははは。完全に同意する。


 これが無ければ、精々5/42程度だったはず、それが15/42か。凄いな。このスキル。宝の持ち腐れにならない様に生かさないと。そして、他人に奪われない様に厳重注意だよな。


「ねえ、ついでに『泡』のスキルも調べてみてよ、ベイル君が持っていたやつね」


 そうだな。何なのだろうな。類似のスキルって思い浮かばない。


 ベルンスキル:【泡類Ⅰ種】


 液体に空気、または性質の異なる気体成分が混合された状態の『泡類』を発動できる。発動後は、泡の状態(すぐに消える気泡バブルと消えない泡沫フォーム)とともに気体と液体が存在できる。発動条件は、明確な完成品のイメージに依存する。


 Ⅰ種は、物理法則内に限る。

 Ⅱ種は、AのⅠ類とBのⅠ類を組み合わせスキル化できる。

 Ⅲ種は、すべての法則を無視して、泡類スキルを生み出せる。


「ごめんなさい、何を言っているかわからない」


 安心してくれ、俺もだ。とりあえず、泡と云えばなんだ?


「泡だった石鹸とかシャンプーとか?あとはビール、炭酸水、コーヒーも泡立つわよね。お茶だって、ペットボトルを振れば泡立っている。油も水もブクブクするわよね、てんぷらとか、卵白OKなら生クリームケーキとか、涎がでそう」


 あははは、手の上に煮立った油とか勘弁だ。


 手からビールが出るとか面白すぎるのだけど。ただ、この世の中で生まれたベイルが、今、ミユが言ったものを生み出せたかと云えば、知らないモノは生み出せないから無理だろう。


 使いこなしていたらスキルレベルももっと上がっていると思うんだよな。


「そうよね。このスキル説明だと、ある程度の教育受けていないと、理解できない内容じゃないかしら」


 まあなあ、物語の主人公なら、追放案件だな。理解してくれる現代っ子のアイリーミユがいてくれて良かったよ。森で木を見つけたら、コップか皿をつくってみよう。


「モノ作りができる余裕があるといいわね」


 確かに。


 ◇


 俺たちは、西の森に向かう手前の林に沿って南に歩きながら探知を行った。明るいうちに拠点のようなものを確保しておきたい。空は雲一つない快晴だ。風もない。今夜の天気は心配しなくても良いだろう。


「探知のスキルは小動物や昆虫みたいなものが探知に引っ掛からない様に設定できるみたい」


 ああ、生物全検索だと、確かに切りがないな。俺もそうしておこう。林に沿って南に歩いていると、小川が見えてきた。アイリーミユ、近くに川があるよ。小さいけれど。


「飲料出来るか鑑定して観たいわ」


 うん、行ってみよう。街道から身を隠せるような場所を探して、林の中を小川沿いに50mほど進んだ。この辺りなら街道から500m近く離れた。大丈夫だろう。足元にクリーンとドライをかけて彼女を座らせた。水を掬ってこよう。


「布を、絞っていない雑巾みたいに濡らせてみて」


 わかった。川幅が3mほど、水が流れているのは1mほどの小川だ。深さはせいぜい、50㎝もない。雨水で溢れたりしないのかな。全く未整備というか人の手の入っていない天然の川だ。用水路と云うには広すぎる。


 水は、冷たくはないな。耐寒耐性のせいだろうか。常温に感じる。


「もっと冷たいかと思っていたわ、ただの水ね。のどは乾いていないけど、なんとなく手を洗いたいわ、連れて行って、きゃあ」


 俺は座っていたアイリーミユを、そのまま膝に手を入れて抱き上げた。軽いな。川沿いで降ろすよ。


「驚いたわ。服越しだから声が届かないのは不安ね。スカートや上着の長袖を短くしようかしら」


 昔の世界って、極力、肌を隠していたんじゃなかったっけ。この世界がどうなのかはわからないけれど。どの服も、女性ものは長袖とロングスカートだったな。


「なるべく触っていてね、なんだか真っ暗闇で不安になるわ」


 ああ、もちろん、そうするよ。彼女は小川の中に入り、俺と手を繋いだまま水に手を付けた。


「思っていた水の冷たさじゃないわ、生ぬるい?」


 耐寒耐性のせいだと思うんだ。冷たさや寒さを感じにくい。


「ああ、それでね。手と顔を洗ってみる。石鹸、というか、ハンドフォームみたいな泡を出してみて」


 出来るかな、俺は手押しポンプの手洗い泡石鹸をイメージして手のひらに出してみた。白い泡々がでた。半分を彼女の手に乗せ水をつけて泡立てた。すぐに泡立った。


【鑑定】


「手洗い石鹸ですって、顔を洗う、洗顔フォームも出せる?」


 やってみるよ。何が違うんだろうな。まあ、細かいことよりイメージを優先するべきか。濡れた彼女の手のひらに、洗顔フォームらしき泡を乗せた。彼女はそれを揉み揉みするように泡立て顔につけた。そして顔を洗ったようだ。皮膚はわからないが、表情はさっぱりしている。


「ドライで乾かしてね」


【ドライ】


「いいわね、魔法の世界って、眼で見えなくても体感したわ」


 俺も同じように顔と手を泡立てて洗った。そして彼女を膝の間に入れて、二人で小川を向くように座り、手を握った。アイリーミユが俺に背を預けるようにもたれ掛かる。小柄なので収まりがいい。


「なんだか、やっと落ち着いたね」


 ああ、俺もそう思うよ。


「生まれ変わって、どれくらい時間が経ったかしら」


 う~ん、三時間くらいかな。


「HPが全く減っていないのよね、のども乾かない。お腹も空かない。これって自動回復のお陰なのかしら」


 どうだろうね、俺も同じだよ、自動回復は持っていないけど、HPは全く減っていない。さて、少し休んだら森の奥に行こうか。空腹感がないなら、耐性もあるから寝ることもできるかもしれない。夜がどれほど冷え込むかはわからないが。


「薪を拾いながら歩きましょうね、明るいうちに寝場所を確保しておこうか、暗くなってから南の街を目指してもいいけど魔獣が夜、出るのかな」


 夜の移動は避けた方がいいかもね、多分、思った以上に真っ暗になると思う。今の時刻が昼の2時とか3時くらいなのか、と思いつつ、俺たちは川沿いを西に向かって林の中を進んでいった。

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