第3話
次男の
当時二歳になる直前の年末だった。
発熱や嘔吐がないのは幸いだったが、思いの外長引いてしまい、そのまま年越しとなった。
小夜子にとって、また明広本人にとってつらかったのはお尻拭きによるかぶれだろう。
見た目では至って普通。
しかし、下痢になった翌日にはもう、お尻拭きで触れるだけで激しく泣くようになってしまった。
ならば、と風呂場に連れて行って汚れは洗面器に張ったお湯にお尻をつけて落とす。
これを複数回繰り返して、お尻は擦らぬように拭いて。仕上げに軟膏。
服を着せたら素早く風呂場の消毒。
冬。
浴室に暖房はない。
一日も早く、下痢の症状が良くなってくれることを願いながらの年末年始となったわけだが、小夜子を悩ませる問題が一つ。
夫の実家への挨拶である。
年始の挨拶といっても、昼前に先方に到着したら暗くなるまで滞在することになる。
ちなみに車で三十分程度の近距離。
毎年一月三日から五日の間に行われるそれは、この時も例外ではない。
だがしかし、明広の長引く下痢は小夜子を神経質にしていた。
夫の両親が用意してくれる料理は豪華なのだが、割りとなんでも食べる明広が食べ慣れないものを食べて下痢が悪化することになりはしないかと懸念していたのだ。
だから夫に、年始の挨拶は少し日延べしてはもらえないか相談したのだが。
「下痢くらい大丈夫だよ。お前が行きたくないんだろ」
と言われて却下されてしまった。
当日までにはなんとか治まった下痢だが、『くらい』とは何事か。
『大丈夫だよ』?
そりゃ、下痢した本人でもなけりゃおしりを洗うわけでもない。
あなたは『大丈夫』だろう。
小夜子が行きたくないのは本音でいえばその通りだ。
夫は自分の実家で酒飲んで酔って、挙げ句三時間程度は寝てしまう。
その間小夜子は他人の家で、子どもたちが物を壊したり汚したりせぬように自宅以上に気を張らなくてはならない。
帰りの運転では、スピードが遅いだの端に寄りすぎだの、文句を垂れる夫。
こんなの、行きたいと思えるわけがないではないか。
そもそも、遠方と仕事を理由にして小夜子の実家には寄り付かぬくせに、『お前が行きたくないんだろ』は解せない。
夫の実家に向かう度、小夜子はこの一言を思い出すのだった。
なんでそんなこといわれなきゃいけないの? 山桐未乃梨 @minori0
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