第2話

十二月に入れば、晴れていても空気が冷たく肌を刺す。

自宅のウッドデッキをブラシで擦りながら、小夜子は時折手に息を吐いた。


年末年始なんてはっきりいえば嫌いな小夜子にとって、大掃除は億劫なことこの上ない。

しかしやらねばならぬという謎のプレッシャーには抗えず、黙々とウッドデッキを擦り続けた。


いわゆる『家事』をするは、億劫でこそあれ不満はない。

妊娠を期に仕事を辞め専業主婦になったのは、どうせ共働きを続けて子どもが生まれても、家事のほとんどを小夜子がやることに変わりがないだろうと思ってのことだ。

保育園に入れることに夫が難色を示したのも理由の一つであるが、今思えば夫は家事の分担などする気がなかったのだろう。


子どもがほしいと強く望んだ夫。

家事はしなくても育児はそれなりにやってくれると淡い期待をしていた当時の小夜子。


『男親の出番は三歳から』


などと宣った割に、現在長男九歳、次男は五歳。


さてその出番とやらはいつ来るのか。


平日休みがあっても、幼稚園の送迎なんてしない。

朝食を一緒に食べない。


遡ってみればオムツ交換さえ数えられる程度しかしない夫だった。

それも“小”だけの時のみ。


乳製品が嫌いな夫は、ミルクしか飲まない“大”の匂いがダメなのだと言っていた。


離乳食が始まったらじゃあといってできるはずもなく、小夜子が呆れると同時に羨ましくもなった。


やりたくないことをくだらない理由でやらなくて済む。


なんとも羨ましいではないか。


夫に期待するのはもう生活費を稼いで来てくれることだけ。

それで十分。


デッキブラシを止め、ホースで水を撒く。

あらかた汚れが落ちたのは良いが、長靴に入り込んだ水が冷えて来た。


痛みさえ感じて来る冷えに溜息を吐く小夜子。


これだから冬は嫌いなんだ。





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