第4話 転生

モニカ=ミツォタキスは隣りにいる青年と話していた。

「私には、前世の記憶があって此処にいるのもたぶん貴方と出会う為だった」

 モニカは目の前にある海を見つめる。

「俺がモニカさんを悲しませたりしない。俺の前世がお調子者のケイスだったのかは分からない‥‥」

 モニカはスマホを握りしめる。ハデスから掛かってきた電話に出る。

「ハデスさん?私になにか?」

 モニカは電話越しからきこえる嗄れた男性の声に反応する。

『モニカか。余だ。ハデスだ』

 転生前から知っているギリシャの神々。

『転生したあとの人生はどうだ?クレーネーがお前のことを心配してた』

クレーネー様、いやクレーネー様が私のことを?

ハデスの言葉にモニカは驚く。

「それなりに楽しんでます。私は人間なので食事したり、お酒を飲んだり、恋をしたりで忙しくて」

『そうか。お前を転生させることに余は反対だった。アスクレピオスの件以来、死者を蘇生させて生き返らせるのは冥府のルールに反すると。だが‥‥事情が変わった。クレーネーがお前のことをどれだけ大切に思ってたかを』

 「クレーネーさんが私のために?ハデスさんが重んじる秩序を破ってまで‥‥‥」

『悲観するな、モニカ。人間とは輪廻転生することもある。余は妹であるクレーネーの願いをきけてよかったと思ってる』

「ありがとうございます、ハデスさん。せっかく転生したんだもの。明るく生きなきゃ」

 モニカは電話を切る。

ケイスは手元の砂を弄りながらモニカに訊く。

「俺たちはもうすぐ22歳になる。親から自立して結婚して子供達がいて老後に備えるんだ」

モニカはケイスの右肩に手を置く。

「老後はずっとずっと先よ。焦らないで」

モニカとケイスの前には白い砂浜と海が広がっている。

潮風がモニカの髪を靡かせる。

「ケイス、父さんを説得させたら結婚しない?」

「ああ。お前の親父は頑固者って聞いたけど、俺はお前を諦めたくない」

 ケイスの言葉にモニカがこくんと頷く。

 人生でたぶん一番輝いてるであろうこの瞬間を忘れたくない。

 モニカはブーツを脱いで裸足になる。

「ケイス、貴方もほら」

 波打ち際で遊ぶモニカを見てケイスが笑い出す。

「モニカさん、俺も!」

 裸足になったケイスはモニカと海水の掛け合いっこをする。

モニカの髪もケイスの髪も濡れていた。

「砂浜に俺の運命の人ってかくよ」

「やだ!恥ずかしいじゃない」

 2人だけの夜の海は素敵だな、とモニカは思った。




 

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