第8話 新入生勧誘号のキラーコンテンツ
でも
すごく聞きたいのだけど、見当違いだったら恥ずかしいし、かといって予想が当たっていても気まずいだろうし。そもそも、それを聞いてどうするのか。プライベートにつっこんだことを、興味本位で聞くなんて。
結局、どう言えばいいのかもわからないまま今にいたっている。
あの、文化祭用の原稿を提出してくれなかった幽霊部員を呼び出した日、すっかり梶にまいってしまった
梶は話題を変えたかったのか、ただ言い忘れていたのか、話を元に戻した。
「あー、
みんなの前でほめられた可奈は照れながらも誇らしげだ。
「そうそう、さっきは言い忘れてたが、小論文やエッセイも受け付けてるぞ。特に小論文は入試対策で授業でも指導してるからか、部誌に書くやつも多い。お前らも練習だと思えば書きやすいんじゃないか?」
梶の問いかけに、一年生三人は「空想の話より小論文の方が書けそう」「エッセイ、そっか日記だと思えば書けるかも」「どっちかって言ったらさっきの切り取る方かな」と、それぞれ自分にあった書くイメージができたようだ。
「いきなり絵空事を書けって言われても抵抗あるよなぁ。俺もそうだったわ」
「えぇ〜。問屋先生、さっきノリノリで女子高生になりきった文章書いてたじゃないですかぁ」
「あー、俺も文芸部で鍛えられたクチなんだよ。普通に書いてたら『古い』『カタい』『読む気がしない』って散々言われてなぁ」
ははっと遠い目になった文芸部顧問である梶も、部誌に寄稿している。
最初は文芸部の顧問らしくと恰好つけて書いていたが酷評され、さすがに読まれもしないのはマズいと思い、イマドキの子にウケそうな文章に寄せるようになったと梶は語る。
「おかげで今じゃ
語った梶自身も本意ではなかったようで、こう続けた。
「まぁお前らは無理して俺みたいな感じに書かなくていいからな。お気に入りの作家がいるなら、それっぽく書く方が楽しいし身につきやすい。お前らも新入生勧誘号には目を通したんだろ? 気になる作品があったなら、それ風に書くのもアリだ。あ、丸パクリは」
「「「「「ダメ、絶対!!」」」」」
部員たちの重なった声に満足気な梶。
「部誌と言えば、私達の代から載ってるお笑いがあるじゃないですか。あのコント作品、尖ってるのに面白くてファンなんですけどぉ。あの作者って、もしかして、問屋先生だったり?」
可奈が話すコント作品とは、数回の会話でオチがある超短編の会話劇だ。
一年生三人も可奈に続いた。
「私もコントのファンです!」
「たくさんあるネタ、それぞれ短いのに、どれも面白くて。新入生勧誘号の中で一番好きです!」
「あれを読んで文芸部に入りたくなりました!」
新入生勧誘号は文字通り、新入生に興味を持ってもらうために作られる部誌だ。
厳密にテーマやフォント、掲載ページ数が決められている文化祭の部誌とは違い、自由度の高いお祭り本なので、部員それぞれのこだわりを色濃く出せる。
たとえるなら、文芸部で作る同人誌といったところだ。
新入生に刺されば即入部につながるため、編集も毎回新しい試みがなされてきた。
話題に上がっている新入生勧誘号では、他作品、コント作品、他作品、コント作品、という並びで作られていた。
実のところ最初は、どの作品も見開き頭から始めようとしていたのだが、新入生勧誘号は持ちページ数に上限があるもののページ数自体は自由なため、見開き半分が余りがちだった。
余ったページすべてイラストなどで埋めてもいいが、そうすると分厚くなりすぎる。
見開き半ページに短い作品を入れてはどうかと、試しに短いコントを入れてみたところ、コントをまとめて載せるより、合間あいまにある方がコントも目立つし、全体的に読みやすくなったので、他作品とコントを交互に掲載する運びとなった。
「熱烈なファンコールは嬉しいが、残念ながら作者は俺じゃねぇんだわ」
「じゃああれ、私と同い年か先輩が書いてるんだ……。スゴい。私、お笑いけっこう好きだけど、真似できる気がしない。あんなの、どうやったら考えつくんだろ?」
可奈が思わずつぶやいてしまうほど、新入生勧誘号に掲載されていたのは、斬新な切り口かと思えば、王道あり時事ネタあり人情ありと、
「……生活かかってるから、ネタ探しに極振りなんだと」
「え?」
「うちはバイト禁止だろ? だからなにかしら書いては賞に投稿しまくってて、すでにいくつか受賞してたな。成績落としたら授業料免除じゃなくなるから、落とさない程度に、授業中もネタ探ししてるってさ」
「……お金がないってことですか?」
「詳しい事情は本人から直接聞いてくれ。制服はおさがりだから仕方ないが、もうちょっと本人自身の身なりにも気を使ってくれたら嬉しいんだけどな。まぁ、校則違反しているわけでもないから、学校側としては強く言えねぇんだが」
部長になった
知った瞬間は信じられなくて何度も聞き返したが。
空気を読める可奈も察したようだった。
「まさか……コントの作者ってヌマエル!? え、イヤ。でも……え、待って。えええ!?」
多城さんの混乱っぷりわかるわー、あのスゴいコントを書いてたのがあの菱沼さんだったって、すぐには納得できないよねぇ、と思いながら可奈を見つめていた紗葉は、可奈と目があったので「間違いなくそうだ」と、うなずいておいた。
「ほんとにヌマエルがあのコントを……?」
可奈はまだ信じられないようだ。
「気づいたなら仕方ないが。いいか、お前ら! 普段からペンネームと本人を表立って結び付けないように気ぃつけてくれよ! 下手したら次回作が読めなくなるんだからな!」
1年生3人は、次が読めなくなるのは嫌だと、絶対に他言しないとブンブン首を縦に振った。
「あー、なんか話それまくったが、どうだ? お前ら、部誌の原稿、書けそうか?」
「はいっ」
「書けます!」
「バッチリです」
「よしよし。ん? 多城?」
「…………」
「おいおい大丈夫かよ? あー、時間も遅くなってきたし、今日はもう解散な。原稿は部長の
「はい」
生徒指導室を出ると、一年生三人は「明日、絶対書いて持って来ます!」
と、約束してくれた。
紗葉がほっとしていると、ガバリと可奈に手をとられた。
「お願い、如月さん! もう少し私につきあって!」
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