第6話 『取り返しのつかない失敗』とは
……6話と7話はシリアス回になります。ノーサンキューな方は、お手数ですが飛ばしてくださいm(_ _)m……
「あー、高校生の俺は、確実に今のお前らよりバカだったわ。高校自体も行ったり行かなかったりだったし、その頃やったバカなんかクサるほどあるし、失敗してばっかだったし。けど、気のいいダチと女友達がいて、なにが起きても笑い飛ばせて、『楽しかったなぁ』って記憶しかねぇんだわ。ちゃんと勉強するようになったのも最後らへんからだったし」
「その失敗って、先生がよくネタにしてる話ですか?」
たずねた幽霊部員に「覚えてくれてたか」と梶が嬉しそうにする。
「『キャッチに引っかかって』」
「『高額な商品を買わされた』」
「たしか、夏休みのバイト代ひと月分が消えたんですよね」
「『お前らはそんなポカしないように』」
「「「「「『期限が過ぎる前にクーリングオフ』」」」」」
部員全員の声がハモった。
「はは、そこをちゃんと覚えてもらってて嬉しいねぇ」
「先生があれだけ話せばいやでも覚えます。それに、先生のその失敗は、取り返しがついてますよね? ちゃんと役だってたじゃないですか」
「そうな。クーリングオフを知った頃には期限過ぎてて後悔にむせび泣いたけど、働き始めてすぐ、給料ひと月分の高額な商品買わされたものの、ちゃんとオフできたってオチだもんな。これさ、金額的に七万と三十万だけど、精神的ダメージ量は同じだからな?」
高校生にとって七万円は大金だ。
「それでなんでまた買っちゃうんですか!」
「逃げ道ふさがれて、持ち物とられて、買うって言うまで囲まれて、部屋から出られなかったからだよ! マジあれコワい。お前らほんと、繁華街で声かけてくるヤツに耳貸すんじゃねぇぞ。いくらイケメンに声かけられても、ホイホイついていくなよ? ついていった先にはイケメンいないからな!」
「それも聞き飽きましたよ」
「『誘いをかけてきた美女は部屋まで案内したらいつの間にか消えてて、中はセールストークする奴らが待ち構えてた』って」
「繁華街は生徒指導の先生が見回りしてるのに、うっかりしません」
「制服のままだと生徒指導にバレるからって、制服ぬいでウロウロもやめとけよ」
幽霊部員二人がそっと目をそらした。
「してんだろ? 意地悪とか校則だからとかじゃなくて。普通にヤバいから、学校終わったらさっさと帰れよ?」
「でもー」「せっかくだから買い物もしたいしー」と話す幽霊部員に、ちょっと考えてから梶は口を開いた。
「……ハタチになったかどうかな時に、高校時代の女友達の一人がコドモ産んだって聞いて、祝いに行くことになったんだよ。お前らは、生まれて間もない赤ちゃんて見たことあるか?」
唐突な話題転換に
「そっか。俺はもっと丸々してると思ってたから、想像してたよりガリガリな姿に、大丈夫かコイツって、ろくにさわれもしなかったわ。一緒に行った女友達が抱っこさせてもらったら、いきなり涙を流し始めてさ」
「赤ちゃんに感動したとか?」
「俺も最初はそう思った。けど、自分でも涙を止めらんねぇみたいだったから、ソイツを外に連れ出して話を聞いた。そしたら、『わたしはもっと小さい子を殺したんだ』って」
いぶかしげな部員と、なにかを察した部員とがいた。
「ここは上品な学校だからないだろうが、俺の高校じゃあカンパ箱って、堕胎する金を集める箱がまわってきてたんだよ。だからか、俺も学生時代は疑問にも思わなかった。ただ『高校生で妊娠したら産めないから堕ろす』ことを選んだだけだって認識だった。堕ろすのだってタダじゃない。十万以上かかるからカンパが必要で、男子は『今度は誰がポカやったんだよー』なノリで、表面的には、金さえ払えば、なにもなかったことになってた」
信じられない、という表情の部員たちに、梶は静かに続けた。
「勝手な話をするが、俺は、今の話を聞いたお前達は、きっとこう思ったんじゃないかと思ってる。『高校生で妊娠するなんて、バカな学校の生徒が
部員たちは全員ギクリとした。
梶が言った通り、
そもそも相手がいないのだけど、いたとしても高校生で妊娠とかありえない。「頭が恋愛お花畑な子が盛り上がってうっかりシちゃったんだろうな」と思っていた。
だから、友達の赤ちゃんを抱っこして涙した部分にしても、「今さらでしょ」としか思わなかった。
「でもな、逆なんだわ。まぁ当時の俺も知らなかったが、むしろバカな学校だったから、避妊に関しての情報共有が女子同士でされていたんだと。それでも望まぬ妊娠をしてしまった子を助けるためにカンパ箱があったらしい」
部員たちはさらなる話の方向転換をうまく飲みこめないでいた。
学生時代の早すぎる妊娠が、本人が盛り上がった結果でないなら、話は違ってくる。
「また俺の勝手な話をするが、俺は、高校生当時のソイツは、高校生で妊娠して堕胎したことをちゃんと認識してなかったんじゃないかと思う。その手で赤ちゃんを抱っこするまでは、きっと、ただ、目の前にある障害を払っただけだったんじゃないかな。雨が降ってきたから傘をさした、みたいな」
今の
だからもし今の自分が妊娠したとしても堕胎する一択だろうなと思った。
でもな、と梶は続ける。
「たしかに表面上はなにもなかったかのようにできても、誰にも知られなくても、自分は知ってて、自分からは逃げられない。ソイツはずっと『自分は人殺しだ』って罪悪感を抱えて過ごしていて、赤ちゃんを抱っこした瞬間に決壊したのかもしれない」
梶の言葉で、最初は「赤ちゃんを抱っこしたことで初めて堕胎の意味がわかった恋愛お花畑な女子像」が「自分の都合で殺してしまったとずっと罪悪感を抱えていて、赤ちゃんを抱っこした瞬間に決壊した女子像」に変わった。
ちょっと息をついて、梶は表情を明るく変えた。
「ちなみにソイツは今じゃ子だくさんの主婦だ。『産めなかった子の分まで生きてやる!』ってな」
今度は「いろいろあってすっかり図太くなった女子像」にかわった。
「あー、どうだ? お前らのソイツはどんなヤツになった? イメージかわったか? ずっと同じだったか?」
「え?」
「今のは先生の実話じゃなかったの?」
「ただの思考問題?」
混乱している部員たちに、梶はうすく笑った。
「なにが言いたかったかっていうとだな。なにを『取り返しのつかない失敗』だと思うかは自分自身だってことだ。他人がどうこう言おうが関係ねぇ。失敗かどうか決めるのは、最終的に自分が納得できるかどうかだろ? 生きてる限りひっくり返すチャンスがあんだから、『取り返しのつかない失敗』は死んでからじゃないとわからない。だから、悪いが、お前らが思う『取り返しのつかない失敗』がなにか、俺にはわからん。わからんから手伝えねぇ。今の自分の精一杯やっとけば、未来の自分が『あのときもっとこうしとけば良かった』って後悔しないんじゃねぇの? くらいのことしか言えねぇわ」
そういえば、これは『取り返しのつかない失敗』の話だったと部員たちは思い出した。
「そんなのはわかってます! 私が言いたいのは
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