神官さんは美少女
「なんで私こいつを追放してないのよ!? え、ホントなんで!?」
ホントなんでなんだろなぁ、って内心思ったりしてるけど、口には出さないでおこう。朝起きて一番最初にブチ切れたリスカの相手をすることは予想できてたけど、ホントなんでだろうね?
「忘れたんですか?昨日自分で話をウヤムヤにして走っていったんですよ?」
「いや、追放とかそういう大切な話してる時にそんなことし出す奴普通いる? いないでしょ?」
そうだね。
普通いないね。でも多分お前普通じゃないよちょっとチョロすぎて心配になるもん。
「……オイどうするんだよホシ。さすがに自分の幼なじみがここまでアレとかちょっともう心配過ぎるんだが?」
「目を逸らさないでください。アレが貴方の優しさが生み出した悲しきモンスターです」
生み出したと言われても、さすがにあそこまでチョロくなかったが大半の性格は昔のリスカのままだし俺の責任と言われても……。
あれ、昔のまま?
「もしかしてリスカって、かなり、その、愉快な性格してる感じ?」
「はい。あの女はマジで人間性スカスカのカッスカスですよ!」
今まで見た中で一番なんじゃないかってくらいの笑顔でホシは答えた。
もしかしてホシってリスカのこと嫌いなんだろうか? なんか急に不安になってきたぞ。ホシもリスカも強さで言えば本当に多くの人に期待されている通りの実力を持つ二人だ。
そんな二人が喧嘩でもしてみようものなら、普通に街が滅びるしこのまま喧嘩別れとかしてしまえば人類の戦力面での大きな喪失だ。
「…………おい、そこの顔面アンデッド神官、今なんか私の悪口言わなかったか?」
「は? 言ってませんよ耳垢づまりクソアマ。ね、私言ってませんよね?」
笑顔で話を振ってくるホシと、魔族みたいな形相でこちらを睨んでくるリスカを見て、改めて俺はこのパーティを追放される訳にはいかないと思った。
だって多分俺がいなくなったらコイツら2人を仲裁する係がいなくなって、2人の喧嘩で人類が滅ぶもん。
◇
「…………なぁ、あれって」
「しっ、目を合わせるな。間違いねぇよ」
「『切断』の勇者だろ? 近づくなよ、殺されるぜ」
リスカの後ろを歩くと、基本的にいつもそういう声が聞こえてくる。
一応、彼女は既に魔王軍の幹部を1人倒している紛れもない実力者であり、平和への貢献という視点からでも『勇者』であるにも関わらずこの扱いなのは、まぁ色々と理由がある。
「スーイのやつ、わざわざこの町を集合場所にしたのぜってぇ私への嫌がらせだろ」
「自分の行いを省みた方がいいですよ。魔王軍の幹部を1人倒すためとはいえ、結果的に街を一つ、残っていた住民ごと切り裂いて廃墟に変えた『切断』の勇者様?」
「手加減してたらこっちが死んでたんだから仕方ない犠牲でしょ。雑魚100人いてもアイツは倒せなかっただろうし」
声を抑えていたホシと違ってリスカは堂々と、一切声の大きさを抑えずに平然とそんなことを口にするものだから、影から彼女を見てヒソヒソと何かを話していた者たちは、震え上がったり、軽蔑の視線を向けたり、刺し殺さんばかりの目を向けたり、とにかく良い感情に好転する者はいなかっただろう。
……リスカの悪評については、実際本当のことなので置いておくとして、とりあえず今はスーイを探さなければ。
スーイはこのパーティにおいて『魔術師』を担当する……なんと言ったらいいか分からないが、不思議なやつだ。
魔術師と言っても魔導院とかで優秀な成績を収めていたとか、親が凄い魔術師だとかそういうのでもないのに、何故か凄い魔術をポンポン撃つし、急にいなくなって急に帰ってきたりする、本当によく分からないけれど、悪い奴ではないということくらいしか分からない。
しかし例外なくリスカとは仲が悪い。
リスカはいつも「魔術くらい私でも使えるし、私が全部斬ればいいんだから後衛とか必要なくない?」とか言ってるし。実際殆ど俺と同じ生活をしていたはずなのに人並み以上に魔術を使えるようになってるリスカがすごいという話ではあるが。
「というかアイツの方がぴょんぴょんそこらじゅう飛びまわれて機動力高いんだから、自分で来ればいいのになんで待ち合わせとかしなきゃいけないわけ?」
「ああ、伝書小竜が持ってきた手紙には『ついでにここの街の食事処美味しいからちょっと寄ってこうかな』って書いてありましたよ」
「なんだ? この街の人間と一緒にどのタイミングで私が怒るかの賭けでもやってんのかあの変温動物?」
「そんな面白そうなことするのに私に連絡をしない人じゃないですよスーイは。あ、私は街に入った時点で怒るに賭けますね」
「…………マジで魔王殺したらまず最初にお前達殺すから覚えとけよ」
リスカはその場で踵を返し、街から出ていく方向へと歩みを進め始めてしまった。止めたいけれど、今下手に止めると確実に俺の首が飛ぶ。そんな状態のリスカに話しかけるには、今の俺では少々勇気が足りない。
「ホシ……なんでお前すぐにリスカのこと煽っちゃうんだ?」
「別に私は嫌いな相手に礼儀正しくしたいとか考えませんし。ほら、神も言っています。我慢は良くないって」
「せめて、その、一応仲間だからね? そこは我慢しようよ」
「嫌ですよ。だってリスカってば、私の事初対面で『顔面アンデッド』なんて呼んできたんですよ? 神官である私に向かって。これもう不敬罪ですよ! こんなに可愛い私を!」
グイッと、ホシが俺の顔を掴んで自身の顔へと近づける。
吐息がかかりそうになる距離で見せつけられる彼女の顔は、確かにキメ細やかな肌と大きな藍色の瞳。血色の良い唇に黄金のような髪の毛ととてもでは無いが旅をしているような人間の見た目とは思えないくらいに整えられてるし、純粋に美人だ。これをアンデッドなんて呼んでしまったら俺なんてもうスケルトンがいいところだ。
「うん。確かに初対面の相手にアンデッドはちょっとな。でもリスカも悪い奴じゃないんだよ。誰にだってアタリがきついし、基本的に他人の事見下してるし、発言がすぐに矛盾するし、理不尽だし……」
「悪い奴にしか聞こえないんですけど?」
「いや、ほんとにちょっとはいい所があるはずなんだけどなぁ……」
フォローしてやろうと思ったけれど、正直フォローしてやれる要素がなんもない気がしてきた。
あれ? もしかしてリスカって強さ以外全く評価できるところの無い人間なのか? いや、まだ諦めるのは早いはずだ。リスカにだってまだいい所が……。
「もうやめましょう。ダメな子どもの良いところをひたすら探そうとする親みたいで見てるこっちが辛いので」
「いや、ほんとにリスカもいいところがあるんだよ! あ、そうだ! アイツ小さい頃、色々あって俺が魔獣に食われそうになった時とか急に現れて魔獣を素手で撲殺して倒してくれたんだよ! 優しいよな!?」
「小さい頃がいつぐらいなのか知りませんけど魔獣を素手で撲殺は普通に優しさよりも先にバケモノ感増すんですよね」
確かに今思えばアレ相当バケモノだな。だってあの頃のリスカは祝福とかのない普通の子どもだったわけだし。
「まぁまぁ。あの女の話はいいとして、せっかく久しぶりに前線から下がってきたんですから、息抜きとかしませんか?」
「息抜きって、スーイがわざわざリスカを呼び寄せるなんて、そんな事してる暇がある時はしないだろ?」
「いや、スーイとの待ち合わせ予定日まで実はまだ余裕あるんですよね。ぶっちゃけ前線が長くてそろそろ息抜きしたかったので。ほら、魔族と戦うのぶっちゃけだるいじゃないですか」
とてつもなくサラッと、世界を救う勇者の仲間として失格な発言が飛び出したような気もしなくもない。
しかし確かに息抜きというのは人間である限り絶対に必要だ。
何日も何日も戦いが続くと、実際は体に問題がなくても先に心が音を上げる。
それに、ホシはこう見えてれっきとした神官なのだ。
戦いなんかより、穏やかな祈りに時間を捧げたいというのが本音なのだろう。
◇
「あー! やっぱ酒は万病の薬ですね! 疲労腰痛肩こりその他諸々! だいたい全部酒があればどうにかなります!」
「すげぇな嬢ちゃん! 見かけによらずいい飲みっぷりだ!」
それからしばらくして。
俺の目に映ったのは神に祈りを捧げる神官の姿ではなく、顔を赤くして酒を浴びるように飲む神官を名乗る美少女、ホシこと本名ホットシート・イェローマムの姿があった。
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