第47話 俺達の今後




 先生との気まずさも無くなった。俺を悩ませていたものが無くなったおかげで、気分がとても晴れやかになる。


 親との関係も、まだ少しぎこちなさは残っているが、それは時間が解決してくれるだろう。

 もう俺達の仲を引き裂くものは無い。だからこその不安が出てきた。


「世名ちゃん最近元気ないけど、どうしたの?」


 響也もすぐに気づいて、心配されてしまった。それぐらい態度に出ていたらしい。昔みたいに隠し事が上手く無くなった。いや、響也だからこそ見抜くのかもしれない。


「うーん。ちょっとな」


 この悩みは、完全に俺のわがままだ。言ったところで、困らせるだけである。困らせたくは無いからごまかそうとしたけど、響也には通用しなかった。


「ちゃんと話して。どんなことでもいいから。俺、世名ちゃんの味方だから。ね?」


 優しく促されてしまえば、観念するしかない。俺は小さく息を吐くと、ずっと悩んでいたことを話した。


「親にも認めてもらったけど。でも俺達の関係は、人に言って回れるものじゃないだろ。デートだって……男女と同じようには出来ない。なんでだろうな……別に悪いことをしているわけじゃないのに」


 好きな人と、どうして堂々と過ごせないのか。そう考えると、やるせない気持ちになった。

 悩んではいるけど、でも大々的に発表してもらいたいわけではない。そんなことをしたら、受け入れてくれる人もいるかもしれないが、どこかで一線を引かれる。

 好奇な視線にさらされ、面白おかしく他人事のようにからかわれそうだ。響也には、友達と仲良くしてもらいたい。


「ごめんな。何かをしてもらいたいわけじゃないんだ。ただ、モヤモヤしているだけで。こういう気持ちとも、付き合っていかなきゃいけないんだって分かっている」


 深刻に受け止められないよう、あえて明るく振舞った。でも響也は真剣な表情で、何かを考え始める。


「いや。だから本当に、気にしなくていいんだって」


 大事になったら困る。俺は大丈夫だと伝えたが、その前に響也の中で何か案が浮かんだらしい。パッと顔を輝かせた。


「分かった。俺に任せてよ」


 自信満々の様子に、水をさすようなことは言えなかった。とりあえず変な案じゃありませんようにと願いつつ、好きにさせてみることにした。






 響也が何を思いついたのか、すぐに判明した。


「今度の日曜日、予定空けといて。一緒に出かけよう」


 そう言われ、俺はこの前のことだと分かった。

 どこへ行くのか。不安を抱えながら過ごし、日曜日になった。

 指定された待ち合わせ場所に行くと、響也がすでに待っていた。私服なのだが、いつもより大人っぽい。見慣れぬ姿に、ドキッと心臓が鼓動した。


 まだ俺に気づいていないらしく、スマホを見ている響也を、遠くから何人もの女性がチラチラと見ていた。相談している人もいて、話しかけようかタイミングを窺っているみたいだ。

 響也は格好いいからモテる。それは分かっていたことなのに、改めて実感させられた。俺に惹かれていたと前に言っていたけど、元々は女性が好きだったはずだ。可愛いなんてからかうが、俺の見た目は可愛さとは無縁だった。自分が一番よく分かっている。


 俺で、いいんだろうか。表立って関係を言えない俺なんかで。


「世名ちゃん?」


 考え込んで、いつの間にか意識が遠くの方にいっていた。目の前に響也がいて、心配そうに話しかけてくる。


「あ、悪い。ちょっと考え事してた。というか、いつから待ってたんだ。まだ、待ち合わせ時間前だよな?」


 別に俺が遅刻したわけではない。むしろ早めに来た。それなのに、響也は少し前から待っていたようだった。


「あー、うん。今日のプランを考えていたら、いつの間にか早く来ちゃっただけだから。気にしないで」


「それならいいけど……それで、今日はどこに行くの?」


 女性の視線を感じながら、俺はそれを気にしないように響也に話しかけた。


「そうだね。まずは、ちょっとカフェで軽くご飯を食べようか」


「ご飯? 別にいいけど」


 俺とは違い、全く女性の視線を気にしていない。勝手に一人でモヤモヤしてしまっている。

 あ、話しかけてきそうだ。


「あ、あの。2人共、格好いいですね。私達も2人なんですけど、一緒に遊びませんか?」


 いわゆるナンパというものか。初めてのことに、どう対処するべきか分からずに黙ってしまう。固まっている俺に対し、響也が俺と女性の間に入ってくれた。


「ごめんね。今日は2人で遊ぶ予定なんだ。それに、この子恥ずかしがり屋だから。お姉さん達も、2人で遊んだ方が楽しいよ。今日はお互いにそうしよう」


 冷たく切り捨てるのではなく、あくまでも友好的な言い方に、女性2人も悪い感情を抱かなかったようだ。


「お兄さん、口が上手いね。分かった。今日のところは諦めてあげる。それじゃあ、またね」


 お互いに手を振り別れると、響也は俺の方を向いた。


「……随分慣れているんだな」


「まあ、ああいうのはお互いに楽しく終わらせた方がいいでしょ。そうしないと、一日モヤモヤしたままになっちゃうから」


 言うことに一理あったから、俺もそれ以上は文句を言わなかった。


「それじゃあ、カフェに行くぞ。これ以上とどまっていたら、また話しかけられるかもしれない」


「分かったよ。それじゃあ行こうか」


 手を繋ぎたかった。でもそれには人目がある。俺は我慢しながら、響也と並んで歩いた。




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