第44話 本音を聞いてみる
「もう反対しない」
落ち着いてから、父はぼそりと言った。その隣に座る母は、俺に近づいて頬に手を添えた。
「いい人を選んだのね。あなたを、もっと信じるべきだったわ。……叩いてごめんなさい」
「いいんだよ。……俺も心配かけてごめん。家を出るとか、縁を切ってやるとか……言いすぎた」
「そうね。あなたのためにとやったことで、あなたを失うところだったわ。結局親のエゴだったのね」
「今まで守ってくれて、俺は無事だった。それは2人のおかげだよ」
「本当にごめんなさい。……ありがとう」
頬に伸びていた手は、いつの間にか俺を抱きしめる形になっていた。その優しさに触れ、思わず涙がこぼれる。俺の肩もじんわりと濡れたので、母も泣いていた。
父と響也は邪魔をせず、好きなだけ泣かせてくれた。
「本当に泊まらなくていいのか?」
「明日も学校だからね。そんな寂しそうにしなくても、すぐに会えるって」
父と母に認めてもらい、そのまま家に泊まれと勧めたのだけど、響也は帰ると断った。
離れがたくて、玄関まで見送る。
「響也のおかげだ。響也がいなかったら、こんなふうに認められることもなかった。本当にありがとう」
そっと手を握る。全て響也のおかげだ。俺は手の感触を感じながら、ふにふにと握る。
「俺は言いたいことを言っただけだよ。世名ちゃんの話を聞いて、気持ち悪いと思うわけないから。言ったことは、全部本当だから。世名ちゃんが良かったら、俺は世名ちゃんとの子供がほしい」
「本当に、本当に気持ち悪くないのか。親の前で気を遣っただけなら、今話してくれ。ちゃんと受け止めるから」
「まだ信じてないの。本当だって。今の俺の目標は、世名ちゃんと結婚して子供を作って、幸せな家庭を築くことだから」
たわむれに遊んでいた俺は、その言葉に固まる。
ここに来る前にプロポーズまがいの言葉をしたが、結婚を通り越して妊娠なんて。顔が熱い。でもその未来を嫌とは思わなかった。
「今はまだ学生で、将来のこととかはっきり分かってない。でもいつかは、いつかはそういうことも……考えているから」
「世名ちゃん!」
感極まった響也が俺に抱きつく。薄暗いから、人の気配もない。俺も抱きしめ返した。
「……響也、好きだよ」
「俺も、世名ちゃんが好き。愛してる。……本当に良かった……」
小さく呟く響也は、顔には出さなかったけど怖がっていたらしい。本当に上手くいって良かった。
「……これからもよろしくな。いつでも家に来ていいから」
響也の変態具合もバレたので、父は微妙な顔をしていたけど、母は響也を気に入ったようだ。いつでも大歓迎だと言った。
「父さんのことは気にしなくていい。響也が勝ち取った権利だ」
宥めるように抱きしめる。怖い中で、頑張ってくれたお礼だ。
「……これって、結婚の挨拶をしてもらったも同然だよね。世名ちゃんと結婚……」
その言い方に寒気がして、俺は思わず体を離した。
「……おい。まだ先のことだろう。馬鹿」
「まだ先って……卒業したら結婚するでしょ?」
決定事項の言い方に、俺の方が驚かされた。そんなに考えてくれたのか。
「……違う?」
急に不安げな顔になって、俺に確認を取ってくる。不安になるぐらいだったら、話を聞いてから聞けばいいのに。そういうところは考えなしだ。
大きく息を吐けば、響也がさらに不安そうに顔を歪める。
まったく。泣きそうな顔をしなくてもいいのに。
「そうだな。卒業したら結婚するか」
「……よかった。嫌なのかと思った」
「嫌なわけない。ただ2人のこと決めるのなら、きちんと話し合いをしてからにしような。分かったか」
「……分かった。ごめん」
俺と響也は目を合わせ、そして笑った。
「また明日、迎えに来るよ。一緒に学校に行こう」
「待ってる。……気をつけて帰れよ。事故とか不審者とか」
「大丈夫だって。気をつけるから。そんなに心配されると、名残惜しくて帰れなくなる」
「わ、悪い。まだどこか信じられないのかも。現実味がなくて」
突然キスされた。軽く、すぐに離れたけど衝撃は受けた。
「これで、現実だって分かってくれた?」
「わ、分かったけど、急にこんな。誰かに見られていたら。馬鹿」
照れ隠しでポカポカ叩く。響也は、それを嬉しそうに受け止めた。
「もっと怒られる前に、俺は帰るよ。それじゃあね」
「ああ、また」
これ以上引き止めたら、どんどん暗くなって危ない。俺は手を振り、響也の姿が視界にうつらなくなるまで見送った。
気づかないところに近所の人がいなかったか。最後に確認して誰の気配もないのを見てから、家の中へと入った。
「ただいま……っうお!」
中に入るとすぐに、父と母が立っていて驚かされる。本日二度目でも、同じぐらい驚いた。だって、そこにいるとは思わなかったからだ。
「えっと、どうしたの?」
尋ねれば、2人とも目を合わせようともせず、咳払いをしながら答えた。
「ああいうのは、人目を気にしなさい」
父の言葉に、俺はキスしているのを見られたのだと察する。親に見られた。
あまりの恥ずかしさに返事が出来ず、しばらく固まっていたぐらいだ。
もう絶対、誰かがいそうなところでキスはしないと誓った。
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