[14] 修行
行き詰まりは感じていた。
日々の部活動で身体能力は確かに向上している。聖剣の扱いにも多少は慣れた。
それと同時に自分の限界も見えてきた。この方法をつづけていたところで私はこれ以上強くなれない。
別に慧や長谷川先生が悪いわけじゃない。どころか私のためによくやってくれていると思う。
けれどもそうしたこととは関係なしに閉塞感を覚えてならない。
私の投げこまれた状況においての強さはそのまま生存率に直結する。
今まで私は生き残っていられた。それは単に運がよかっただけだ。
ひとつ上の段階の、新しい戦い方を身につけなければ、私は死ぬ。それは次かもしれないし、ずっと先のことかもしれない。
案外死なずに残滓をすべて排除できる可能性もあることはある。その可能性がどの程度のものか私には計測できない。計測できないものに私は期待することをしたくない。
だからある意味でシャーロットちゃんに出会えたこと、それから聖剣が彼女に稽古を頼んだことは渡りに船と言えた。私ががんがんにやる気になるかはさておくとして。
学校の裏手は小高い山になっていてその山を越えたところにシャーロットちゃん家の道場はあった。そんなところにそんなものがあるなんて知らなかったけれども、興味のないものに対する知識なんてそんなものだ。
土曜日の朝、運動できる格好でと言われてたので、私と慧は学校のジャージを着て道場を訪ねる。板張りの床の中央でシャーロットちゃんは正座で待っていた。
金髪碧眼小柄のシャーロットちゃんは今日も今日とて剣道着を身にまとう。
似合っている。似合っているが別の格好してるところも見てみたいと思う。例えばふっわふわのお人形さんみたいな衣装とか。きっと似合う。どうすれば着てもらえるか見当つかないけど。
「今日はよろしくお願いします」
私は精一杯丁寧な口調で深く頭を下げる。
「うむ。引き受けた以上、できる限りのことは教えよう」
シャーロットちゃんの受け答えはしっかりしてる。ほんとよくできたお子さんだと思う。
まずは体力テストから。
シャーロットちゃん曰く、実戦においては生き残ることが目標の1つである。戦うか逃げるかについて的確な判断が求められる。そのためには自己の限界をきっちり把握する必要がある。
ケガするほどの無理はしなくていい、ただ多少きつくても体力の最後の1滴まで絞りとって欲しいとのこと。
ランニングに腕立て腹筋、反復横跳びその他、やってることは学校で春にやったことと変わらない。
これでもここ最近は体を鍛えている。学校でやったときよりいい結果は出るはずである。
伸びていた。
しかし隣でやってた慧にはかなわなかった。なぜだ。慧もやってることは変わらないはずなのに。もともとの地力の違いだろうか。
シャーロットちゃんは今の限界を知ることが大事で他人と比べなくていいと言ってくれたが、正直なところちょっと悔しかった。
いったん休憩をはさむ。お昼ご飯。
シャーロットちゃん家でごちそうになる。おにぎり、味噌汁、キュウリの浅漬けのシンプルな献立。たっぷり運動した後の疲れた体に栄養が染み渡る。
実にうまい。
午後は竹刀を持たせてもらう。素振り。
今まで我流でしかやったことなかったので先にシャーロットちゃんにやって見せてもらう。
私たちにもわかるようゆっくりと綺麗に振り下ろしてくれる。正確でまったくぶれのない軌道。剣のことは詳しくないけれど、シャーロットちゃんの剣筋が美しいことは素人目にもわかった。
彼女が残滓であったとしたらどう攻略すればいいだろうか?
遠くから観察して相手の隙を狙う――私では隙を見つけられない。むしろ状況を見誤ってこちらが不利に陥る可能性が高い。
だとしたらいっそ正面突破でいちかばちかの勝負になる。私の聖剣が彼女を消し飛ばすか、彼女の剣が私の首を切り落とすか。
明確な勝ち筋は見えない。
フォームを修正してもらいつつ体になじませたところで防具をつけて実戦。
慧を相手に打ち合った――。
板の間に正座する。冷たい感覚が私をしびれさせる。
シャーロットちゃんは静かに目を閉じている。
多分だけれどこの時シャーロットちゃんはわたしに伝える言葉を最大限選んでくれていたのだと思う。どういう組立てで伝えればもっとも効果的にそれをわかってもらえるのか。
AはBである。それを伝える方法はいくらでもある。そうして伝わる事実はどの方法をとったとしても大きな差はないかもしれない。
けれども受ける側にも受け取り方というものがある。それに対してどう感じたのか。
『AはBである、だからCだ』と思うこともあれば、『AはBである、ただしDという条件が付けば話は変わってくる』と思うこともある。
完全にコントロールすることはできない。それでも努力次第では望む結果に近づけることはできる。
熟慮に熟慮を重ねた末にシャーロットちゃんは私を見据えて言った。
「あなたには自主性がない」
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