[13] 会合

 部活もないのでさくっと帰ろうとしたら正門のところで謎の金髪少女に勝負を挑まれた。今までの人生勝負を挑まれたことなんてなかった。というか普通そういうイベントに出くわすことはないと思う。

 さてどうしたらいいのか? 冷静になっていきさつを振り返ってみたが特に何も浮かばない。

 というか私が気になってしかたがないのは下校時刻に学園の正門のど真ん中で立ち止まって金髪碧眼剣道少女と対峙していることでたくさんの視線が私に突き刺さることだ。

 聖剣のせいで注目されることは増えたがそれでも居心地悪いものは悪い。


「ちょーっと話に入らせてもらいますね」

 慧はぽんと私の肩を叩いた。

 無限に近いと感じられた硬直状態がようやくほどける。何というかすごく息がつまった。金髪少女――シャーロットちゃんの放つプレッシャーがものすごかったのだ。

 割って入ってきてくれてめっちゃ助かった。まあそれでもぼーっと見てないでもっと早く助けろよとは思ったけれども。


 軽い調子を崩さず慧は話をつづける。

「どうも、私はこの娘の友人で園田慧。こんなところで立ち話もなんだからどっか座れるところに行ってのんびり落ち着いて話しましょ」

「そうだな。すまない。確かにここで話しつづけるのは他に迷惑になる」

「おっけおっけー。まあいつも私らがだべってる店でいいかな。ついてきて」

 もう1人の当事者である私を抜きにしてさくさく話が進んでいく。私がぼけっとしてて話に入っていかなかったせいもあるが。

 私たちが歩き出せばそれを囲んでいた人の輪は自然と崩れる。そうなればもう普通の放課後で私たちも人ごみの中に紛れていく。大剣持ちと金髪幼女とその他1人という一風変わった編成でも。


 いつものスタパ。窓際の席に横並びに3人座る。

 カフェオレをちびちび飲みつつ私は考える。正確には考えをまとめる。ここまで歩いてくる時間、話すのは基本的に慧にまかせて、私は道々、思考を巡らせていた。

 一応聖剣の方にも確認しておこう。思念を投げかける。あれこの機能久しぶりに使った気がする。サシで話すならこれで済むんだけど、他に会話してる人がいると声出さないと成立しないからな。

『聞きたいことがあるんじゃないかったのか』

 そうだったそうだった。私ってさ聖剣持った状態じゃないとあのめちゃくちゃな運動能力発揮できないよね?

『その通りだ。最近訓練しているとはいえ、聖剣を持っていなければお前の運動能力は一般人の範疇だ』

 だよねー。ついでに聞くけど聖剣で残滓以外たとえば人間とか攻撃したらどうなるの?

『魔法に対する耐性を持たない現代人なら一発で消し飛ぶ』

 ありがとう。うん、おおむね私の予想してたのであってた。


 私とシャーロットちゃんの間に座った慧が仲立ちする。

「えーっとそれじゃあ一旦整理するよ。シャーロットちゃんはこの聖剣の使い手、嶺崎香子と勝負がしたいって話だったよね」

「そうだ。私も剣術使いの端くれ、今この街で活躍している聖剣の使い手と手合わせ願いたいのだ。もちろん無理は言わない。拒否してもらって構わない」

「ということなんだけど香子、どう?」

 慧がこちらに話を振ってきた。私はここにやってくるまでに考えた答えをそのまま正直に伝えることにした。

「ごめんなさい。私じゃその勝負の相手にふさわしくありません!」


 その言葉にシャーロットちゃんは形のいい眉をぴくりと動かした。

「それはどういう意味だろうか。私では不足であるというのなら力を試してもらうことも――」

「えっと、そうじゃなくって。私は剣持ってないと弱すぎて、剣持ってると強すぎるんです」

 だいたいの事情を知ってる慧はそれだけで察したのか、ああなるほどねという顔をした。けれども何も知らないシャーロットちゃんには通じないから、きちんとそのあたりを説明する。

「私はこの聖剣装備してない状態だとただの普通の女子高生なんです。とても相手になりません。聖剣を装備してるとすごい力が出せるんですけどそれは調節できるものじゃなくて人間相手だと触れただけで消し飛ばすことになっちゃうんです」


 ちょっと早口になりながら私は一気にそうまくし立てた。シャーロットちゃんはそれを聞いてうーんとひとしきりうなってから、「そういうことなら仕方ない」とため息をついた。

 せっかく私を訪ねて来てくれたのにほんとに申し訳ないことだ。私は別に戦うのが好きというわけではないから、勝負を挑まれて嬉しかったとかそういうわけではないけど。

 ただ自分のできることを求められてそれが簡単に叶えられるなら叶えてあげたいと思うぐらいには善良で親切な人間なのだ。つまりはおおよそ普通。


 気まずい。3人並んで無言でコーヒーその他を飲む。

 シャーロットちゃんの用件が済んでしまえば私たちに特に話すことはない。世間話でもすべきだろうか。でも初対面の年下の子と共通の話題は何だろうか、すぐに思い浮かばない。

「シャーロット・桜庭、ちょっといいだろうか」

 渋い男声が沈黙を切り裂く。気まずい状況を破ったのは聖剣だった。

 呼ばれたシャーロットちゃんはどこからから聞こえてきた声に驚いていたが、聖剣の声だと補足するとすぐに受け入れた。適応力高い。


「お前をひとかどの剣士と見込んで頼みがある」

「私なんてそんな。まだまだ修行中の身です」

「謙遜するな。この時代に目覚めて出会った人間の中ではお前は段違いに強い。まだ若いのに立派なものだ」

「ありがとうございます」

 それにしても珍しい。聖剣が自分から話しかけるなんて。いつもは勝手に会話に入ってくることはしないのに。まあそれは私がきつく言ってるせいもあるかもだけど。

 頼みがあると言っていた。何かとても重大なことでもあるんだろうか。私はその時点ですでに嫌な予感がしていたがあんまり考えないようにしていた。

 ずいぶんとかしこまってるシャーロットちゃんに対し、聖剣はその頼みとやら端的に言った。

「我の使い手に稽古をつけてやってくれ」

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