[12] 正門

「私ってある意味では魔法少女だと思うんだよね」

 下駄箱に上履きを片づけつつそんなことを言ったら慧が思いっきり怪訝な顔をしてた。なんでだ。

 その後もだいたい週1ペースで残滓を処理していったところ気づけば夏。期末考査は無事終わってあとは夏休みを待つばかり。紫外線対策はめんどいけど別に嫌いな季節じゃない。

「何言ってんのか全然わかんないから詳しい説明お願い」

 歩きながら慧が先を促してきた。

 季節が変わっても友人はライトブラウンの髪をショートに切りそろえている。涼しくてよさそうだなあと思うけど自分には似合わないかもと思って結局やっていない。


 私は慧に向かって1本、人差し指を立ててみせた。

「まず私って少女じゃん」

「間違ってはないけど、魔法少女って言われたらもうちょい年下イメージするかな。それから?」

「よくわからない力を使ってよくわからない敵と日夜戦ってるでしょ」

「そこのところは確かにそうね。説明してもらったけどよくわかんないところはよくわかんないし」

「最後に、えーと、聖剣っていうマスコット的存在がそばにいる」

「さすがにそれは無理があるんじゃないの」

「うん、実のところ私もそう思った」


「我としてもマスコット扱いはあまりうれしくないのだが」

 背中の聖剣が会話に首を突っ込んできた。

「そう? ただ小うるさいだけの扱いされるよりなんか役割があった方がいいでしょ」

 聖剣が声を発しているので私も頭の中でなしに実際に口に出して言い返す。

「うーん、しかし、マスコット……マスコットかー」

 いい加減にこいつの存在に周りも慣れてきた。学園の敷地内、たくさんの人の中、バカでかい大剣を背負った少女がいても、たいして気にも留めない。

 まあ街中ではいまだにぎょっとして二度見してくる人は結構いるけども。


 思いついたから話しただけで何か特別な意図があったわけではない。

 その日は部活が休みでこのまままっすぐ帰ろうか、それとも慧とどこか適当なところに寄り道しようか、なんてことを私はのんびり考えていた。

 ふとちょっとした違和感。最近なにかそういうのに敏感になった。立ち止まるほどではない小さな違和感。正門のあたりで人の流れで若干滞っているようだ。

 チラシか何かでも配ってるんだろうか、珍しい。それでもその程度のことだろう。

 流れに乗って歩いていけばその正体が見えてきた。正門の真ん中に少女が1人、仁王立ちしていた。


 身長は低い、多分150cmない。体形からして恐らく中学生か、小学生の可能性もある。

 白の道着に紺の袴でいわゆる剣道をする格好。道場ならいざ知らず正門前で見かけるものではない。

 そんなことよりさらに目を引くのは、綺麗な金色の髪と深い青の瞳だ。髪は動きやすいよう後ろで1本にまとめられていて、瞳は迷いなく前を向いている。

 だれか待ってる人でもいるのかな、そんなことをぼんやり考えながら、私は足を動かしていたところ、ばっちりとそのサファイアブルーの瞳とかちあった。

 改めて綺麗だなと思う。ただそんなことを感じたのはほんの一瞬で、私は自然とその少女に対して身構えていた。その視線はぴったり私の上に静止して睨みつけるような勢いでこちらを見ていたから。


 金髪碧眼剣道ロリは私に向かって歩いてくる。

 あんな知り合いいただろうか。いやいたとすれば忘れるはずがない。だとしたら初対面のはずである。それがまっすぐ私の方に近づいてくる。

 よくある勘違いじゃないか。自分に挨拶をしたと思ったらその後ろの人に対してだったってあの恥ずかしいパターンのやつ。それだ。

 少女は私の前でぴたりと立ち止まると優雅な所作で頭を下げた。それから、「あなたが聖剣の使い手だな」とはっきりそう言った。


「はい、そうです。私が聖剣の使い手です」

 私はあわてて礼を返す。動揺して変に声が上ずってしまった。どうやら間違いなく私に用があるらしい。

 通り過ぎていく人たちが視線を投げかけていく。こんなところに立ち止まって話をしているのだから当然だ。

 それも片方は巨大な剣を背負っていて、片方は目立つ容姿の金髪碧眼美少女。私だってそんなのが人通りの只中で立ち話をしていたらちょっと横目で見てしまうだろう。

 少女は黙ってこちらを見上げている。

 私は隣の慧をちらりと見るが彼女は一歩引いて静観の構えをとっていた。あてにならない。


 しょうがないので私の方から口を開いた。

「えーっと、私に何か用でも?」

 少女ははっと息をのむと再び私の目を見てくる。そして周囲の人たちが一斉に足を止めるほど大きな声で次のように言った。

「私はシャーロット・桜庭。祖父のもとで剣術を学び、日々鍛錬を重ねている。聖剣の使い手よ、お願いだ、どうか私と勝負してくれ!」

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