[11] 2回目
前回は休日だったし、聖剣もそろそろ来るはずと言ってたので、出かける予定はなるべく入れてなかったのに、残滓は現れなかった。
別に来て欲しかったわけじゃないんだけどね。
休日と平日、どっちに来てくれた方が都合がいいのか。休日の方が時間に余裕がある。けど平日、授業の途中に抜け出すのもちょっとサボれていい。
まあ私の希望を言ったところで通る話でもないのはわかってる。
月曜日の3時間目、数学の授業中。スマホにメッセージ、学園長から。
残滓出現。
聖剣背負って後ろの扉から教室を抜け出した。なるべく授業の邪魔になんないように静かに。それでも前の席の慧はさすがに気づいてこちらに親指立ててエール送ってくれた。
校門前には見るからに高級そうな車が止まってる、多分リムジンとかいうやつ。その横にはナイスミドルな執事が立っていて、私に優雅に礼をする。
学園長のさしがね、っていうとちょっとおかしいな、ともかく手配してくれてたもの。颯爽とはいかずにおそるおそる乗り込んで現場に急行した。
近所の公園。昼前だから子供なんかがいてもおかしくなかったのに、見事に誰もいない。綺麗に人払いされている。人脈なのか権力なのかわかんないけどすごい。
ジャングルジムの横、黒々とした大蛇がとぐろを巻いている。太さは私だけでは抱えきれないぐらいで、長さは伸ばしたら20メートルにはなるのかな、バカでかい。
さてどうするか?
聖剣の言ってた勝ち筋を思い出す。先に斬るか、先に斬らせて斬り返すか。
とりあえず接近。あれ、意外と反応がない。自分なりに音殺して歩いてるつもりはあるものの、所詮は素人、気づかれてもおかしくないのに。
こっちを油断させる罠という可能性もある。うーん、経験がないから手の読み合いはすこぶる苦手だ。いいや、このままつっこんでしまえ。
私の間合いにその巨体が入る。
ぱちり、大蛇が目を開いた。だがもう遅い。
横薙ぎに大剣を振り払う。それでおしまい。
大蛇は首と胴が離れると霧となって消えてしまった。
勝った。一瞬のことすぎて実感が薄い。とりあえず体動かして伸びをする。青空が頭上に広がっている。
このままのんびり帰っても4時間目には間に合いそうだ。学校出た時は昼休みまでには終わればいいかなって気分だったのに。
なんというか拍子抜け。執事さんに入れてもらったお茶を飲みつつ、また高級車で学校まで戻って、そんな風に2回目の討伐はあっさり完了した。
『迅速な対応が功を奏したな。相手にひるまず接近したのも好判断だった、よく恐れず冷静に行動した。攻撃のタイミングも完璧だった、動き出す瞬間というのはどうしても隙がうまれるものだ。日々の訓練のおかげだろう、動きもよくなっていた。自分なりの体の動かし方を理解しつつあるのかもしれない。これからもこの調子でやってこう』
聖剣だけでなく慧も長谷川先生も学園長もめっちゃ褒めてくれた。ただし全員そろって最後には『これからも~』って付け足してた。
放課後、駅近くのスタパでくそ甘いコーヒーを飲む。慧のおごり、これで先週の件はちゃら。聖剣のことで結構世話になってるからこっち的にはもう気にしてなかったりしたけど。
飲みつつ街を行き交う人々を眺めていた。彼らは少しぐらい私に感謝してるんだろうか。いやまあそんなに持ち上げられても困るが。でもほどほどには私のこと気遣ってほしい。
たとえばこの店で聖剣割り引きとかそういうの適用されて欲しいところ。学校の評価以外にもそのぐらいのちょっとしたものでいいからなんか特典があったらいいのに。
「気になってることがあるんだけど」
隣でドーナツ食ってる慧に話しかける。食べる手を止めて彼女はこちらに視線をよこす。
「なんかあんたも含めてみんながみんな私のことものすごくほめたたえてくれるんだけどあれなんなの? 3人で示し合わせたの」
「そんなわけないじゃん。正直な気持ち言ってるんでしょ。すくなくとも私に関してはそうだって保証するよ、素直にすごいなって思ってるから」なんか照れるな。
『我も同じ思いだ』はいはい、ありがとありがと。
「あともう1つ、最終的に『これからもがんばろう』ってところに必ず落ちつくんだけどあれは?」
「だってあんた釘さしとかないとすぐ休もうとするじゃん、部活」
ごもっとも!
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