幼馴染が俺の妄想だったはずがない
くるくる
序章 転生日常
pro- 『神様に願うことは 前編』
自室に引きこもっていた俺が、外の空気でも吸おうかと外出したのは、もう一時間前のことだ。
普段通らない道を選んだのが悪かったのだろう。ぼーっとしながら歩いていたら、あっという間に迷子になっていた。
まあ俺も、人に道くらい聞ける。
親切そうなお婆さんや、暇そうな主婦が通りかからないかと目を光らすが、こんな寒空ではそもそも出歩いている人が少ない。
たまにすれ違う人は、コートに顎をうずめて足早に去ってゆく。
あいにくとスマホは家に置いてきたから、グーグル先生に頼るわけにもいかない。
目に映るのは既に、記憶に全くない景色ばかりだ。
ヒビの入ったアスファルトに、薄汚れたアパート。道の端には錆びた自転車。今にも雪が降りそうな灰色の空を背景に、同色の電柱が真っすぐ立っている。
その電柱の脇が、ゴミ捨て場になってるのだろう。青いネットが畳んで置いてあった。その青いネットのさらに隣に、朱色のミニチュア鳥居が鎮座している。
……鳥居?
予想外の物に気を引かれ近づいてみると、それはまさしく鳥居だった。
安っぽい作りで、小学生が技術の授業で作れそうなクオリティだ。所々色がはげて、地肌のベージュが見えている。
にもかかわらず、その周辺にはどことなく神聖な空気が流れてる気がした。
……なるほど。不法駐輪の防止には人の目のポスターが有用らしいが、それと同じか。確かに鳥居なんてあったら、分別とかちゃんとしそうだ。
そういえば、今年はまだ初詣に行っていない。ちょうどいい。こんなのでも鳥居は鳥居。神様もいるだろう。
その場にしゃがんで、ポケットから両手を出す。
ひんやりとした空気を感じながら――合掌。
願い事は……受験生だから、ベタに学業成就か?
いやいや、そういうのを神頼りにするのは嫌だな。もっとこう、自分ではどうにもならないような……よし。
――事故とか、病気から守ってください!
『コンッ!』
……コン?
振り返るとキツネがいた。
色は黄色、普通のキツネだ。毛並みがフサフサしている。顔を埋めたら気持ち良さそうだ。
ちなみにここは住宅街。この辺りでキツネが出るとは聞いたことがない――などと思いつつ、つい今しがた手を合わせていた鳥居に視線を向けた。
変化はない。
……まさかな。
再び振り返ると、キツネは消えていた。立ち上がって辺りを見回しても、やっぱり見当たらない。
その時、頭に何か感触がした。空を見ると、雪が降り始めたところだった。
――
どうにかこうにか大通りに出た俺は、雪に濡れながら帰路を急いでいた。
あとちょっとという所で県道に突き当たって、イライラしながら車が途切れるのを待つ。
そんな俺の脇を、黒い影が走っていった。
――道路の方に。
何も考えていなかった。
気付けば足が動いていた。
必死に手を伸ばして、紅葉柄の着物の少女を突き飛ばした瞬間――
目の前に壁があった。
――眩しい。
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