Unknownのセフレの話

Unknown

Unknownのセフレの話

 ──ドラマや小説には進歩的な筋書きや起承転結があり、感動的なクライマックスや解決策があるが、俺達の生活はそうではない。日常生活の中で俺達が得るのは、実際には解決される事のない、漠然とした不安の束だけだ……。


 アパートのベランダの曇り空の下でタバコを吸いながら、俺はそんなことを独りで考えていた。季節はもう12月を迎え、冬の様相を呈している。

 そういえば昔、アパートで引きこもり生活を送る22歳の男を17歳の少女が救いに来るというアニメを見た。

 俺もアパートで引きこもり生活を送る26歳の男だが、俺を救いに来る少女など1人も来ない。来るのは宗教勧誘の紙だけだ。

 創作と現実は違う。自分の人生は自分で救わなければいけない。そのくらいはアホな俺でも分かる。


「……」


 タバコの煙を空に向かって吐きながら、俺は自分の人生を悲観した。俺はいい加減、孤独な人生に飽きている。

 俺は時折、単発のバイトをやって金を稼ぐ。ついでに精神障害者として認定されており、障害年金を受給している。俺はその2つによって生計を立てていた。

 俺は一生を孤独のまま終える覚悟はしている。

 精神障害者として、弁えなければならないところは弁えている。

 人と関わるとしても、ネットだけの関係だ。

 俺は日々、自堕落に過ごしている。

 タバコを吸い終わった俺は、部屋に戻って、椅子に座り、缶チューハイを飲み始めた。酒を飲めば孤独は感じなくなる。俺が酒を飲むのは孤独がしんどいからだ。それと早く死にたいからだ。早く死にたいから身体に悪いことをしている。それだけの日々だ。

 俺の生活は全くの無意味に感じられる。昨日と同じ今日。今日と同じ明日。その繰り返し。

 僕はどうしようもない大人になりました。

 ロックンロール以外の創作物では心が動かなくなってしまった。俺は趣味で小説を書いたりすることがあるが、もう誰の小説を読んでも心が動かないのに自分の小説で誰かの心を動かすことなんて不可能だろうと思う。そういうわけで、俺はもう2度と小説なんて書かない。


「あーあ、つまんね。もう全てがくだらねえ。どうでもいいや」


 俺は酒を飲み、そんな独り言を漏らした。

 一応俺は小説を今書いているから、現実には存在しない他人を今から召喚しようと思う。


「なんかムラムラしてきたな。よし、実際には存在しない、都合のいいセフレAでも召喚するか」


 俺は実はAからZまでの総勢26人のセックスフレンドがいる。彼女はいないが、セフレはめちゃくちゃいるのだ。実は俺はめっちゃイケメンなのである。街を歩けば全ての女性が俺に釘付けになり、全ての女性が俺の虜になる。だから26人もセフレがいるのだ。

 俺は自分のスマホを取り、実際には存在しないセフレに電話をかけた。するとワンコールで相手は出た。


『もしもし?』


 と可愛い声がした。


「あ、もしもし。Unknownだけど。今から俺のアパートに来れる? 1発ぶちかましたくなっちゃってさ〜」

『わたし今仕事中なんだけど。Unknownはわたしの事を何だと思ってるの?』

「呼べばいつでも来る都合のいいセフレ」

『……最低! わたし、Unknownのこと大好きだったのに! 女を物みたいに扱う最低の男だったんだね。もう2度とわたしに電話もラインもして来ないで。さよなら』

「えっ、待って! 違うんだよ!!」

『何が違うの? わたしの事を“呼べばいつでも来る都合のいいセフレ”としか思ってないんでしょ?』

「うん」

『最っっっっ低!!! Unknownなんて死んじゃえ!!! 死ね!!!』


 ──ブチ。

 そこでセフレAとの通話は切れてしまった。

 俺は酒を飲みながら落胆し、独り言を呟いた。


「……現実でも上手くいかないのに、小説の中ですら上手くいかないなんて。もうこんな人生、こりごりだ〜!」


 それから俺はセフレB〜Zまで25人全員に電話をかけたが、全員が仕事中だった為、全員に断られてしまった。

 俺は寂しくて、孤独な部屋の中で大号泣した。


「えーん!!!!!」


 ──その瞬間である。

 薄暗い部屋の中が白く光って、その光の中からめっちゃ可愛い20代前半くらいの女の子が都合よく現れたのである。

 俺は驚いて、涙を拭いて女の子に訊ねた。


「あ、あなたは一体誰ですか?」


 すると、女の子は笑ってこう言った。


「私は女神。Unknownくんの様子は異世界からずっと見てたよ。26人もセフレがいるのに、その全員に断られてて、めっちゃ哀れでウケる」

「それで、女神さんが俺なんかに何の用ですか?」

「Unknownくん、いつもひとりぼっちで可哀想だから、私が彼女になってあげようかなと思って」

「……彼女?」

「私じゃだめ?」

「こんな可愛い子と付き合えるなんて夢のようだけど、あなたは俺なんかでいいんですか? 俺、26歳で無職でメンヘラでアル中でヤニカスで貧乏で、どうしようもないクズですよ」

「だけどUnknownくんは超イケメンだし超優しいし超お金持ちだし超面白いし小説の才能だって超あるじゃん」

「真実を言うのはやめてくださいよ。一応俺はネット上ではダメ人間っていうキャラでやってるんですから」

「あははは!」

「はははは!」


 そして俺と女神は、この1Kのアパートで超幸せな同棲生活を開始したのであった。






 〜ハッピーエンド〜

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