[5] 実験
「なめやがって」
練ちゃんは双剣を抜き放つ。その口は笑って八重歯を見せるがその赤い目は笑っていない。
なめてるつもりはない。けれども確かに今の私は余裕綽々だ。なめてるように見えても仕方ないだろう。
練ちゃんの戦闘スタイルは一言で言えばトリッキー。そもそも双剣使い自体がメジャーでない上、その中でも攻撃に全振りしてるタイプは他に見たことがない。
両手の双剣を自由自在に操り、上下左右前後あらゆる角度から斬撃を打ち込んでくる。自己流で振るってるせいでその発生がとにかく読みにくい。
奇襲された場合、初見で受けきれる人はほとんどいないと思う。まあ本人は正面からの撃ち合いの方が好きらしく、そのあたり噛みあってないけど。
出会ってもう4年か5年。最初のうちは対格差で押し切って私が勝ってたけどすぐに勝てなくなった。体術でははっきり私が劣っている。
互い間合いの外。どこから仕掛けてくるつもりだろうか?
来ると分かっていても、目が慣れていても、練ちゃんの初撃に対応するのはたいへんだった。人の隙をつくのが非常にうまい。いつも緊張したものだ。
――動いた!
左? 右? それとも回り込んで後ろから? 意表をついて正面から来る可能性もあるかな?
目の端でかすかに捉える。今から動いても受けるのは無理だろう。だいたい私はいまだに剣すら抜いてないのだから。
けれども何の問題もなかった。というか最悪私が敵の姿をとらえていなくてもどうにかなったりする。そういう風に設計したから。
黒い何かは私から飛び出すと一瞬にして練ちゃんの体をからめとった。
自動迎撃触手。
私を中心にだいたい長剣が届くところの2倍あたりの範囲に、害意を持った存在が侵入すると、黒い触手が自動で発生し敵を迎撃する。
なんで触手の形をとっているのか? 呪いの力で組み上げるのにその形が効率がいいからであって、断じて私の趣味というわけではない。
範囲は広げようと思えばもっと広げられる。間合いの5倍ぐらいなら行けそう。ただしそこまで広げると若干密度が下がるし、あと私がくたびれる。実用性考えると3倍が限界といったところか。
はじめて使ったにしては結果は上々。触手たちは練ちゃんの体を瞬時に拘束して、今も空中でその動きを完全に封じている。
うーん、女の子相手に使用するのは避けた方がいいかも? 絵面が悪い。でも殺さず相手を無力化できるのっていろいろ都合がいいし、なにより私が楽だし。
「おい、これ、ずるくねーか」
そんな考えにふけっていたところ練ちゃんが声をかけてきた。
うっかり解放するのを忘れてた。そっと地面に降ろしてから陣形を解除、触手を消失させる。
「私の今の力量が十分わかってもらえたと思うんだけど?」
実のところ限界出力には程遠いわけだがあんまり危険なことを練ちゃん相手に試すわけにはいかない。
練ちゃんは今の勝負に納得がいかないのか、こちらをぎっと睨みつけてくる。びっくりするほど一方的にやられたのだしそう思うのも無理はないだろう。
ちっとわざとらしく舌打ちすると練ちゃんは立ち上がった。
「次はぜってー負けねーからな、覚えとけよ」
それからそんな捨て台詞を吐いて去っていった。
次があるんだ、ちょっとめんどいかな。私は仕事の話ができればそれでいいんだけど。あとお茶でも飲みつつ騎士団の近況聞いたりそういうことしたい。
まあ今回は不意打ちみたいなもので消化不良だろうからもう1回ぐらいは相手してあげようかな、そんなことを思いながら私も家に帰った。
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