[4] 釈明
しばし呆然とその光景を眺めてから家路につく。
メモは『申し訳ありませんでした』とだけ残しておいた。これで通じるはず。
どうしてこうなったのか? 帰りながら考えて、それから帰ってからも考えた。
だいたいの答えがまとまったあたりで、連絡役の練ちゃんが訪ねてきたので、とりあえず土下座した。
「申し訳ありませんでした。言い訳だけさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「わかった、聞こう」練ちゃんが不機嫌そうに椅子を引く。
「ありがとうございます!」言いながら私も席に着いた。
前と同じくお茶とクッキー(練ちゃんが好きなナッツ入り)を用意しておいたが私は手をつけない。反省の意志が伝わるように。
「私ね、長らく呪いの力を使ってなかったのよ」
「そういえば王都に来てから使ってるの見た覚えないか」
「そうそう。その一方で茜ちゃんの傍で常に聖なる力にさらされてたわけでしょ」
「いつもいつもべったりくっついてたよな」
「幼なじみだから当然ね」
「皮肉のつもりだったんだがまあいいや、それで?」
「長期間の抑圧のせいで呪いの力が大幅に強化されてたみたい」
練ちゃんはしばらく思い悩んでからあからさまにため息をついて見せる。
「そんなことってあるのかよ?」
「現にそうなってるでしょ。私だってまさか盗賊のアジト丸ごと破壊できるなんて思ってみなかったもの」
「お前あれ後始末めっちゃ大変だったんだからな。萌葱はびびってるし、柳は静かにきれてるし、私は敵いなくてつまんないし」
「茜ちゃんは?」
「あいつはいつもとかわんねえよ」
その言葉を契機に日常の光景がふっと頭に思い浮かんだ。つい最近までよく見てた光景。今は私はその中にはいないけど。
それでも落ち込んでたのが少しだけ元気出てきた。まだまだ私はがんばれる、気がする。
練ちゃんはそんな私に構わずお茶をぐいっと飲みほすと立ち上がって言った。
「私と一戦やろうぜ。その力がどの程度のもんだか試してやるよ」
私は考えが顔に出やすい方だ。
そのあたり裏の仕事をするのに向いてないのかもしれないが、いや裏の仕事ならほとんど顔出さずにすむから向いてるのか、どっちだろう? よくわからないし今考えることじゃないや。
とにかくその時はっきり考えてたことが顔に出てたのだろう。『この娘はただ今日戦い損ねた憂さ晴らしに私に勝負を仕掛けてるだけなんじゃなかろうか』という考えが。
「言っとくけどこれは柳の指示だからな。あいつの知ってるより明らかに呪いの力が増大してるようだから一戦交えて力量見極めて来いってさ」
理屈は通っている。
それに練ちゃんが戦いたいだけならこんな理由はいちいち用意しない。『いいからやるんだよ』の一本槍でひたすら押し切ってくるはずだ。
柳の指示というのは本当だろう。けれどもその指示がそもそも練ちゃんにストレス解消させるために出されたやつでは? という疑いは残るけど。
ため息をついて私も立ち上がる。
「ついてきて」
この辺の地理なら私の方が詳しい。ちょうどいい場所を知っている。
夜、街はずれの空き地、周囲は廃墟で人の姿はない。ここなら多少の戦闘なら見つからずにすむだろう。
本当のところ私だって自分の力がどの程度のものか試したい気持ちはある。よく知ってる仲間で試すのは少々気が引けるけど。
私は空き地の真ん中に立った。足元には膝の高さぐらいまで草が生い茂っている。
昔はできなかったことがある。魔力構成を組み上げてみたけど実行するには容量が全然足りなかった。
今ならできるだろう。恐ろしく簡単に実現する。我ながら美しく無駄のない構成。
私は練ちゃんの方を振り返って笑って言った。
「さあどこからでもどうぞ」
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