[3] 偵察

 初仕事とは偵察任務だった。

 そんな仕事わざわざアウトソーシングしなくていいじゃんと思うかもしれないけど、そうはいかないのが騎士団の面倒なところである。

 教会公認ともなればそれなりの振る舞いを求められる。具体的には正々堂々。

 すべての敵は正面から正式な名乗りの後にうち倒されなければならない。

 バカバカしいと思うかは人それぞれで、私個人としてはバカバカしいなと思っているけど、それはそういうものなのだから仕方がない。

 変えようと思えばそそこそこの労力と時間を要することだろう。それが文化というものだ。


 さておき偵察任務。

 騎士団にて討伐依頼を受けた、王都の西の山岳地帯を根城とする盗賊団の戦力規模を調べてきてほしいとのこと。

 昼過ぎに家を出れば陽が沈んだ頃にちょうど目的の地点までたどり着く。盗賊アジト近くの岩場。

 呪いの力がつかさどるのは世界の暗い部分。つまりは夜の闇に紛れて動くなんて得意中の得意だったりする。

 騎士団を立ち上げたころとは違ってめっきり使う機会が減って、久しぶりで使えるものなのかちょっと不安になりつつ魔力を動かせば、あっさりと発動した。

 身体、気配が黒へと染まり、闇へと溶ける。余程魔力を集中しなければ見破れまい。


 うん、我ながらなかなかに邪悪な雰囲気。周りの人が呪いつきを恐れるのも納得だ。まあ害意をもって使わなければ何の問題もないとは思うんだけど。

 あらゆる力は使い方次第。あんまり日常的に受け入れられるものではないのかもしれないけど、使えるものなら私はこれからもこの力を茜ちゃんのために使っていきたい。

 できるだけ詳細な情報を得るため私は裏手からアジトに侵入した。


 ざっと見てったところ警備は一言でザル。

 呪いつきの侵入なんてまず想定してないだろうが、それにしたってアジト内を歩き回ってもばれそうと思った場面が全然なかったのはやばい。

 戦闘員は全部で50人程度で、そのうち魔法を使えそうなのは2人か3人といったところ。

 武器は近距離は剣、遠距離は弓矢の構成で、あんまり質はよくない。恐らくだけど奪ったものをそのまま使っているのだろう。盗賊団にはよくあることだけど。


 結論、うちの騎士団が負けることはほぼない。

 ただし正面から攻めた場合、門のところで手間取る可能性がある。木製だが分厚く作りはしっかりしててそう簡単には破られない。こちらも多少の損害を被るかもしれない。

 アジトを離れて岩場に戻ってくる。私の仕事は終わった。あとは帰り道にある所定のポイントにメモを残しておけばいいだけだ。それで情報が伝わる手はずになっている。


 このまま帰っていいんだけど、いいんだけども――ちょっとぐらいちょっかい出しておいたっていいんじゃないかな?

 正門は9割がた無傷で突破できるだろうけど、私が前もってほんの少しだけ手を加えておけばあっさり崩れるようになる。9割が10割になって絶対に無傷で完全勝利できる。

 工作には大した時間は必要なくてちょこちょこっと魔力を動かせばそれですむ話だったりする。問題は偵察任務にそれが含まれていないことなんだけど。

 そこらへんのことは柳だって臨機応変に対応したとみなして許してくれるはずである、きっと。そもそも騎士団のためにやってることだから全然問題ないはずである、多分。


 そういうわけで私は盗賊アジト正門にむかってちょっとした破壊呪術を展開することにした。

 次の瞬間、山の中腹にあったはずの砦は根こそぎ消え去っていた、大いなる闇に飲み込まれて。

 ……なんでこうなった?

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