[2] 初日
翌朝目覚めて私は長くのばしていた髪を切った、ばっさりと肩のあたりまで。
変装目的と、それから心機一転するために。実際それだけで少し気分がすっきりした。
窓から入ってくる日差しを眺めながらのんびりお茶を飲む。なんとも優雅な生活。
金はある。結構な額を活動資金として与えられている。少しぐらいなら自分のために使っていいですよというお墨付きで。
時間もある。急に決まったことだからひとまずは柳からの指示待ち状態。勝手に動いて適当に情報集めてこいとかそんな雑な仕事でもない。
こうして1人で静かにすごすのは久しぶりだ。ここ数年ずっと時間に追われていた。村を飛び出して各地を回っていた頃も、王都について拠点を構えてからも。
ふと気づく。なんで忙しかったかと言えば書類仕事を私と柳でほとんどやってたからだ。
いきなりそれをほっぽりだして出てきた形になったわけだが大丈夫なんだろうか。さすがにあの作業量を柳1人でこなすのは難しいように思える。
最悪の場合、一旦帰ることも考えたが、まあ時々手伝ってくれてた萌葱ちゃんが書類仕事できるようになれば、なんとか回していけるだろう、多分。
ほんとのほんとにどうにもならなくなったら柳の方から何か言ってくるはず。私が心配しなくてもいいはず。
そんなことを考えたり家の中を掃除したりしていたらもう日の落ちていく時間になっていた。それを眺めて新しい暮らしも案外なんとかなりそうかなと思えた。
夕食後にお茶を入れていたところ、窓が開いて何者かが侵入してきた。
そんな輩無条件で一方的に攻撃してしまってもよかったのだけれど、よく知っている気配だったのでかわりにお茶とお菓子をもう1人分用意することにする。
準備を終えて振り返ると食卓には短髪赤目の少女が不機嫌そうに座っていた。
練。年は十代前半で私よりも3つか4つ下。騎士団随一の武闘派。魔が相手となれば喜んで斬りかかる戦闘狂。
創設メンバーの1人。最初にあった頃から性格は変わっていない。まあ見た目だけなら昔の方が随分とかわいらしかったけれど。
「お前またくだらねえこと考えてるだろ」
乱暴な口調で彼女は言う。
表情に出てたのだろうか、ふっと笑って見せてからお茶とお菓子を私は差し出す。
「あなたが連絡役なのね」
「そうだよ。まったくめんどくせー仕事増やしやがってよ」
悪態をつきながらも練ちゃんはクッキーをばりばり食べている。なんだかんだ未だにかわいらしいところはあるのだ。
昨夜の打ち合わせの際、柳は近日中に連絡役をよこすと言っていた。私の仕事は騎士団の極秘事項だから、その連絡役も信頼できる人間に限られる。
そうすれば必然的に創設メンバーの中から選ぶことになって、茜ちゃんを除外すると、残りは萌葱ちゃんと練ちゃんしか残らない。
その2人からどちらかを選べとなったら私だって練ちゃんの方を選ぶ。つまりはきわめて妥当な人選だということになる。本人はつまんないだろうけど。
「連絡役が何の用? いまさら顔みせなんて必要ないでしょうし」
「初仕事だよ。うちの副長、人使い荒すぎだろうが」
「それはまったくそのとおりね」
苦笑しながら私はお茶を一口飲んだ。
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