第16話 4−3 勇者快進撃

 今回も2:2のフォーメーションを取ろうと思ったが、ダメだ。ティーナの拳が届く前に炎で焼かれてしまう。火山に向かうんだから火傷対策はしてきたけど、彼女は致命的に相性が悪い。


 なら!


「ティーナは二人の護衛!僕が突っ込む!」


「おうよ!頼むぜ!」


 両手剣を持って突っ込む。ようがんまじんは手を伸ばしてくるが、動きは緩慢だ。避けるのは容易い。腕を避けた後、炎が噴射されていない岩石へ剣を振り落とす。


「はああああ!」


 ガギィン!という音が鳴り響く。やっぱり硬い。連撃を加えようとするけど、もう一方の腕が伸びてきたので相手の腕を蹴って避ける。


「ディフェンス・ダウン!」


「アクアショット!」


 ラミューの防御力ダウンの支援魔法が入って、キャサリンの大きな水の弾丸がようがんまじんにぶつかる。やっぱり動きは遅い。ヒットアウェイを繰り返してたら勝てそうだ。


「ムゥ」


 ようがんまじんが両手を合わせて、地面へ叩きつける。登場した時以上の揺れが僕たちを襲うが、僕は三半規管が揺らされながらも駆け抜けた。あんな大雑把な攻撃で動きを止められていたら、この先誰も倒せない。


「ンガッ!」


 口から炎が吐かれるけど、それも全速力で駆けて避けた。そのまま大ジャンプ。目的は相手の頭部。


 揺らめく炎を避けて、筋力を最大まで乗せて振り落とした。


 また鈍い金属音が鳴り響く。だが、その巨体はその程度で揺らがない。むしろ炎の勢いが増してきた。


 今ので怒ったかな?炎系統の魔物は沸点が低いのが鉄板だからね。


「アタック・ベルマ!」


 ラミューが筋力強化の支援魔法をかけてくれる。これであの高い防御力を突破できるはずだ。


 剣に魔力を貯める。大技だ。貯めが必要だけど、その間は僕の素晴らしいパーティーが補ってくれる。


「アクアカッター!」


 今度は刃状の水の塊が、キャサリンの杖から発射された。炎属性の魔物は水に弱いのも定石通り。ようがんまじんは顔を防ぐように腕を交差させて防いでいた。


 だから僕も、水属性の大技だ!


蒼破翔水斬そうはしょうすいざん!」


 大きくなった水の剣を、巨体を真っ二つにすべく振り落とした。その剣は威力を落とすことなく、ようがんまじんが纏った炎を蒸発させながら一刀両断させた。


 僕ができる最強の技だ。これでどうだ?


「やったか?」


「対象沈黙。炎も消えていますね」


 膝をついているのか、ピクリとも動かないようがんまじん。岩石だけが剥き出しになっていて、生命力を感じない。


 魔物って倒したからって消滅するとかないんだよね。アイテムドロップをするわけでもないし。だから魔物を倒したかどうかの判断がつけづらい。


「ふ、ふふ!勝ちましたわ!ユメシロ様の大技を受けて、完全に沈黙しております!」


「やったぜ!幸先良いな!」


 数十秒しても動かないようがんまじんを見て、そう確信する僕たち、もしかして強くなりすぎちゃったかな?修行の日々は大変だったもんなあ。それに職業の頂点たちである師匠たちが僕を認めてくださった。


 僕たちって、もしかしなくても強い?


 そんな、喜びの表情を浮かべていた時だった。


「──この程度か?勇者たち」


 先ほどまで聞こえていた低い声が、この場を支配する。そんな。支援魔法を二つ受けて放った僕の大技で、倒しきれなかったのか?


 ようがんまじんはさっき以上の炎を猛々しく身に纏って立ち上がっていた。炎もそうだけど、威圧感もさっきより数倍ほど大きく感じる。


 さっきまでと同じ攻撃じゃ、あの炎も消すことはできないだろう。どうする?取れる手段なんて限られているんだから。


「さすがはボスだね。僕たちも研鑽を怠ったわけじゃないのに」


「研鑽?……ああ、努力のことか。あの程度で魔王を倒せると思っているのか?人類の頂点に立った程度で、魔王城へ行けると?天使の加護に導かれただけで、あの最弱まおうに勝とうとは、不敵にもほどがあるな」


「そんなに魔王は強いのかな?」


「幾人もの勇者を送って、ようやく倒せる存在だろう?天使の加護などに頼っている貴様らでは、格が違う」


 どこまで知っているんだ、魔王軍は。僕たち転移者のことも十全に理解しているってことか?


 このようがんまじんに苦戦している程度じゃ、魔王に手も足も出ない。そう言いたいのだろうか。僕たち転移者が、天使の加護を用いても敵わないほど格が違うだなんて。


 どれだけ強いのか予想がつかない。


 誰も協力しようとしないけど、本当は十人全員で協力してようやく魔王を倒せるほど、魔王は強いのかもしれない。半分以上脱落した今では、どうしようもできないけど。


 だからこそ、僕が頑張るしかない。


「それでも、僕は選ばれたんだ。必ず魔王を倒し、この世界に平和をもたらす」


「平和?平和とは?……貴様、本当にそれを望んでいるのか?言葉が薄いぞ」


「……なんだって?」


「自覚なし、か。いや、現状に満足している?……ふむ。在り方の差だな」


「さっきから何をブツブツと」


「いや、すまない。魔王と貴様を比べていた。勇者としての才と、魔王としての適正を測っていた。うむ、魔王軍は安泰だな」


「僕たちが必ず、魔王軍を壊滅させてやる!人間に仇なす貴様らを、見過ごせるものか!」


「クリスタル・タワー!」


「うん?」


 僕が話している内にキャサリンが魔法を完成させていた。ようがんまじんの足元からダイヤのような鉱石が塔のように噴出して、ようがんまじんの動きを止めていた。


 奴が動けない内に、近くの魔法陣を破壊すべく、僕は地面ごと剣を叩きつける!


 地面が崩壊し、魔法陣も崩れた。これで魔王城の結界は壊せたはずだ。これ以上、ここに長居する意味もない。


「皆、撤退するよ!」


「おう!」


「逃すか」


 ようがんまじんの口から、炎が吐かれる。頼む、発動してくれ!


「ぐあっ!」


「ユメシロ様⁉︎」


「走るんだ!」


 左腕に掠った!けど、この程度!あのようがんまじんは化け物だ。今の僕たちじゃ倒せない。だから撤退は必要だ。


 見るところ奴はあの場から動けないらしい。山を降りれば、あいつから逃げられる!









「奇妙に炎が曲がったな。直撃コースだったというのに。何度も当たるはずの攻撃がギリギリで避けられる。それに諜報部隊に見つからないこと。人間にしてはありえない成長速度。魔物の大群が倒されたということもなし。……インプよ。魔王城へ連絡だ」


「はっ」
















 僕が目を覚ました瞬間、近くにいたラミューが抱きついてきた。


「ユメシロ様!」


「わっ!」


 場所はテントの中で、僕たち二人以外の姿は見えなかった。外も暗くなっているようで、明かりが少ない。ラミューが痛くならないように、抱きとめた。


「良かった……。目を覚まされて」


「ごめん。状況は?」


「まだグンナール火山ですわ。山を降りてテントを張ってユメシロ様の治療に専念しておりました。二人はもう一つのテントで休まれています」


「そっか。心配かけたね」


 ようがんまじんの炎に、掠ってしまったのだろう。左手に激痛が走っていたけど、今は痛くない。火傷の跡も残っていない。ラミューが回復魔法でどうにかしてくれたんだろう。


「心配いたしました。もしあなたが目を覚まさなかったらどうしようかと……」


「大袈裟だなあ」


「大袈裟ではありません!治療にはとても時間がかかりましたし、ずっとうなされていたのですから!……わたくしたちを庇おうとしたのはわかりました、ですが、それでユメシロ様が傷付いてはダメです」


 体力も消耗したのか、まるで動けない。それをわかっていたのか、ラミューは僕の唇に、自分の唇を重ねてきた。


 ……キス、された?ラミューに?


「安心させてください。わたくしを、不安にさせないで……」


 ラミューが僕の上に乗る。そのまま服を手にかけて──。














「昨日は激しかったなあ」


「抜け駆けは、ラミュー様でもズルイです」


「聞こえてたの⁉︎」


「隣のテントだからなあ。街まで撤退したら、あたしらも参戦するから。いいだろ?姫様」


「ふふ、しょうがないですわね」


 あれ?僕の意見は無視かな?

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